仲間として
翌朝、日が昇って少ししてから起床。そして支度を済ませ食事をとっている間に騎士がやってきて、後で会議室へ来るよう言い渡される。
食べ終えた後に指定された部屋へ赴くと、ヘレンが待っていた。
「おはようディアス。眠れた?」
「ああ。あれから異変は?」
「何もなし。これで終わってくれればいいけどね」
「さすがに打ち止めだと思うけどな」
考えられるとしたら作戦途中に砦へ仕掛ける……とはいっても、警戒度は昨夜とは段違いである以上、さすがに奇襲して砦を制圧できる状況にはならないだろう。
「ヘレン、防備については大丈夫か?」
「やれることは全部やったつもり。ま、魔王候補クラスが来れば話は別だけど、砦からの魔法攻撃は有効だったから、なんとかなるでしょう」
「そうだな……あ、セリーナに昨夜攻撃を仕掛けてきた魔族について、情報が欲しい。姿形についてはもしかするとミリアが知っているかもしれない」
「わかった。それなら伝令で詳細を教えてもらうように通達しておくわ」
「ありがとう。もし魔王候補クラスだったなら、反魔王同盟における幹部級を二体倒したことになるな」
「人間界を荒らす主軸を担う魔族ってところかしら?」
「組織内で重要な立ち位置なのは間違いないだろうな」
会話のる間にニックがやってくる。彼の仲間は引き続き別の仕事らしいので、ここには来ないようだ。
そこから数分後にアルザとミリアも姿を現し……ヘレンが改めて口を開いた。
「まず、昨夜の戦闘について協力ありがとう。おかげで無事に砦を守ることができた」
「作戦についての影響は?」
俺の疑問に対しヘレンは、
「動員できる騎士や兵士の数が少なくなったけれど、拠点を監視する騎士や兵士については問題ないから作戦そのものは遂行できる」
「ヘレンの方は?」
「むしろ私の方が大変かもしれないけれど、まあなんとかなる」
影響は軽微、というわけか。
「それで、ディアス達には引き続き作戦に加わってもらう。でも、監視している魔族達に昨日ほど強い魔族は見受けられないし、順調にいけば今日か明日には作戦を終えられると思うわ」
「それは何よりだ……俺は昨日と同じように援護をすればいいんだろうけど、宝石は昨夜の戦闘で使ったし、補充が必要だぞ」
「後で渡すわ……それでセリーナ達の方だけれど、こちらは既に動き出している」
「そっちに問題は?」
「現時点では問題ない。戦士団も問題なく動いているみたいだし、感謝しないとね」
ふむ、作戦は問題なく進められるようだ……昨夜攻撃を仕掛けてきた以上、反魔王同盟側としては悔しいだろう。
「今日も予定通り事を進める……あくまで表向きは、だけど」
「俺達は昨日と同じように戦うのなら、当然ヘレンは手伝えないぞ」
「そこは大丈夫。ディアス達は全力で対応して」
その言葉に俺達は頷き、話し合いは終了。転移魔法で現地へ向かうべく歩き出す。
「この作戦だが」
その道中でニックが声を上げる。
「どうなると思う?」
「どう……とは?」
「反魔王同盟……人間界に入り込んでいるその戦力は一掃されるだろ。そこはおそらく間違いない。昨日の夜襲が魔族側の反撃のピークだろうし、ヘレンが語っていた内容から察するに、他に脅威もいない」
そこについては同意する……ただニックが言及したのはそこではない。
「だが、大臣を倒すという話はどうだ?」
「……正直、大臣がヘレンの動きをどこまでつかんでいるのかによって話は変わる。それに、今回の作戦に乗じて動くにしても、彼女が本格的に動けばすぐに状況を察することができるだろう」
研究所などを狙うなら、奇襲同然に仕掛けて大臣が報告を受け取れないように処置をすることは十分可能だとは思うのだが――
「そこについてはヘレンの執念か、大臣の用心深さか……どちらが上回るかによって決まるだろう。正直、どうなるか予想もつかない」
「ディアスとしてはどう考えている?」
「ヘレンの作戦が上手くいったとしても、果たして大臣の地位を脅かすほどの結果を生み出せるのか……政争に関係している部分だし、相手も全力で抵抗するだろうからなあ」
「どちらにせよ、政治の世界は荒れるだろうな。そこで俺達に影響がないことを祈るばかりだ」
「平穏無事に終わるとは思えないけどな」
「だな……ちなみに英傑の称号を剥奪なんてことにはならないさ。ニックの立場がどうとかは心配ないだろう」
「別のその辺りは気にしていないけどな」
その様子は英傑という称号を気にしていない風である。彼自身称号に固執する人間ではないので、そう考えているのだろう。
「とはいえ、魔王に挑んだ仲間だ。成功して欲しいとは思うぞ」
「……そうだな」
俺は同意する。そこだけは――仲間として、強く思った。




