長い一日
動きにばらつきが出てきたことで騎士や兵士が魔物を倒すペースも上がっていく……結果、さらに攻め立てることとなり、加えて砦からさらなる魔法の援護が飛来。光の槍が地面にいくつも突き刺さり、さらに魔物の数が減る。
俺達が魔族を一気に倒したことで、どうやら陣地の維持も難しくなっている様子……反対側にいるであろう戦士団の動向はどうか……俺は再び使い魔を生み出し、上空へと飛ばしてみる。
今度は撃ち落とされないか――魔法の妨害はなかった。そして原因も理解する。総大将と思しき魔族が戦士団と交戦し、相手をするのはセリーナとロイド――戦士団『暁の扉』の構成員だ。
なおかつ、その近くにはシュウラもいた。彼女らにしてみれば盤石な布陣。魔法が乱れ飛ぶような状況ではあったが、総大将の魔族は完全に動きを縫い止められている。セリーナ達としては時間稼ぎなのか全力で戦って互角なのか……と、俺はセリーナの魔法が発動する様を見る。巨大な光が生み出され、それが真っ直ぐ魔族へ向かう。
威力の高い魔法ではあるが、戦士団の援護がある以上はより強力な魔法も使えるだろう……俺は時間稼ぎだろうと確信。ここでニックやアルザ、そして指揮官である騎士へ声を掛ける。
「このまま魔族の陣地を破壊する。いけるか?」
問い掛けに全員が頷いた。進撃が始まり、騎士や兵士達もさらに進む。
俺はここで宝石を介し強化魔法を発動。かけ直しという形ではあるが、タイミングとしては丁度良かったか目に見えて動きが良くなった。これにより魔物を倒すペースがさらに増す……陣地に届くのも時間の問題だった。
とはいえ、まだ魔族は残っている。相手が張り巡らせた結界を破壊することは可能だろうが、魔族による集中砲火などが来ればさすがに無事では済まないだろう。
それを打開するには――と、ここでまたも背後から気配。砦からの魔法の斉射……それは容赦なく、魔族達が構築した結界に激突し、それを破壊することに成功した。
これで状況はさらに俺達に傾く。陣地を防衛する魔族が動揺しているのを俺は明確に察しつつ、魔法を放って魔物を打ち倒す。
これを好機に騎士はさらに号令を発し、強化魔法の恩恵を受けて突撃を行った――先陣を切る形でニックが結界を構成していた陣地に足を踏み入れる。そこへ、再び砦から魔法が飛来。魔族側にダメージを与える。
このまま押し込めるか……そう思った時、戦士団と戦っていた総大将に変化が。いくつもの魔法が突き刺さり、それをどうにかして耐えていたのだが……やがて、その体が滅び始めた。
「……敵の総大将が、倒れた」
その言葉は俺の近くにいたニックやアルザ、そして指揮を執る騎士にも聞こえたらしい。
「セリーナやシュウラがやってくれた。このまま押し込むかどうか」
「進みましょう」
騎士が言う。それと同時にさらに攻勢を掛けるよう周囲に指示を飛ばす。
「完膚なきまでに叩き潰さなければ、二度三度こうしたことが起きるでしょう。よって、ここで全ての魔族を仕留めます」
「同意見だ」
騎士の言葉に対しニックが発言する。
「この場にいる魔族は倒しておかないと、まずそうだ」
「今ならまだ右往左往していることでしょう。ここで決着をつけます」
「了解した」
俺は承諾し、アルザと共に魔物へ仕掛けた。
――そして、およそ一時間後に戦いは終了した。魔物を指揮していた魔族は滅び、多数いた魔物も全て撃破することに成功。街道は平穏を取り戻す。
俺は結局総大将の魔族と交戦することがなかったので、魔王候補だったのかは不明だが……その辺りの情報をもらおうとセリーナ達のいる場所へ向かおうとしたのだが、彼女達はすぐさま引き上げた。
「町の方が気になると」
騎士はそう述べた。確かに、近隣の町……特に砦に近い場所に魔物や魔族がいないとも限らないからな。
「明日以降は作戦を続けるために行動とのこと」
「そうか……詳細については後でレポートでももらうとするか。ヘレンを通して教えてもらうようにしよう」
そういう結論に至り、俺とニック、そしてアルザは砦へと戻った。
戦いに出なかった者達で見張りは継続するとのことだったので、俺達はひとまず休むことに。本当なら作戦会議の一つでもやりたかったのだが、また同様に来る可能性も否定はできない。休める内にさっさと休み、明日話し合おうという形だった。
まさか夜襲を仕掛けてくるとは思わなかったが……迎撃に成功したばかりか、敵の主力と思しき軍勢も倒したので、これで明日以降の作戦も楽になるだろう。残る懸念はこれ以上の戦力が残っているかどうか……ただ、俺達の存在を知ってこの砦へ仕掛けたのであれば、さすがに相当な兵力を傾けていると思うので、これで終わりだと思いたいのだが。
「ヘレンとしてはどう思っているのか、話を聞くべきか」
明日もまだ作戦がある……そうしてようやく、長い一日が終わりを告げた。




