砦の魔法
前進すると同時、魔物達がこちらへ向けさらに前進を始めた。魔族の総大将は俺達を食い止め、戦士団に狙いを定める。
俺達としては好都合であり、また同時に楽ではあるのだが……いや、ここで魔族の気配を察知。陣地内にいる魔族達が迎え撃つ形か。
「……むしろ、戦力の傾け具合は俺達の方か?」
「かもしれないな」
ニックは好戦的な笑みを浮かべながら大剣を構え直す。
「どうする? 迎え撃つにしてもやり方はあるだろ?」
「……前進を止めるべきか。いや、勢いはあるし魔物は倒せているし」
「このままでいいんじゃない?」
と、ここでアルザが俺へ向け提言する。
「それに、援護もあるみたいだし」
援護? と思った矢先のことだった。後方――砦から明確な魔力を感じ取る。
なるほど、と内心思うのと同時に騎士達はさらに前進し始める。魔物はなおも襲い掛かり、魔族も接近してくるのだが――そこへ、砦から魔法が飛来した。
一瞬の出来事だった。十数本もの光の槍が、魔物や魔族のいる場所へと突き刺さる。それはヘレンが指示を出し、準備をしていた魔法だろう。
霊脈を利用したと思しき魔法は、地面に着弾すると衝撃波をまき散らし魔物を吹き飛ばしていく――このくらいの威力を出すには、防衛に回していた人員を活用しなければならなかったはず。俺達が押し込んでいる状況から防衛の人員を減らし、準備できたのだろう。
そして魔法は魔族にも十分通用するほどの威力――と、ここで魔族が前に出た。砦からの支援魔法を受けて、悠長に攻撃をしていては間に合わないと考えたのだろう。
けれど、それは悪手――騎士に狙いを定めた瞬間、その横からアルザの剣が煌めいた。虚を衝かれた形となった魔族はその刃が当たり、消滅した。
続けざまに攻めてくる魔族と魔物。そこへニックが大剣を薙ぎ、魔物を吹き飛ばす。同時に迫る魔族。右手にはかぎ爪、左手には魔力――刹那、ニックの仲間が魔法による援護を行った。
放たれたのは氷結系の魔法。それは魔族の右腕に直撃し、腕を取り巻き氷漬けにする。当然かぎ爪による攻撃は無効となり、魔族は一転窮地に――いや、即座に魔力を込めて氷を溶かせばいいが、それよりも先にニックの剣が迫った。
豪快な一閃は魔族に防御する暇を与えない。魔法を食らったことで動きを止めてしまったその魔族に取れる選択肢はほとんどなかった。
結果、剣がまともに入ってその体が両断された。二体目の魔族は滅び――なおも来る魔族に対し、ニックとアルザが同時に仕掛けた。
後方からは別の魔族が来るのだが、魔物を制御しているためかその動きはやや鈍く、各個撃破ができているような状況。この調子なら魔族を倒し続け、陣地としている場所にまで到達できそうな雰囲気である。
俺が魔法によって魔物を一体倒す。それと同時に次の魔物が姿を現した。その後方には別の魔族がいるのだが――俺はここで、杖先に魔力を収束させる。
強化魔法がメインではあるが、もちろん通常の魔法も使用できる。限界まで収束した魔力を、一気に解き放ち――それは大きな光の帯となり、魔物を貫通しながら魔族へ迫る!
「ちっ!」
舌打ちと同時に魔族は回避行動に移る……が、俺の狙いは前にいた魔族ではない。
その後方にいた別の魔族が魔法が迫る。魔物を多数倒しながら突き進んでいるため、威力は多少下がっているだろうが――魔族は舐めるなと言わんばかりに結界を構築。俺の魔法を、真正面から受けた。
光の槍が結界に激突し、せめぎ合う形となる。そこで魔族が何かしら吠えたようだが、声は上手く聞き取れなかった。
たぶん「効かん!」とか「甘く見るな!」とか、そういうことを喋ったのだと思うんだけど……そのセリフからしておそらく俺の意図は気付いていない。俺はなおも魔法を行使し続けるが……やがて、途切れた。
効果をなくし、魔法が終了。直線上にいる魔物を倒すことはできたが魔族を倒すには至らない……俺の魔法を受けた魔族は反撃とばかりに魔法を使おうとしたらしいのだが――そこで、気付いたらしい。
その魔族より前にいた魔族――そいつがニックとアルザの攻撃を受けている。俺の魔法は時間稼ぎであり、本命は別の魔族を倒すことだと気付いたらしいが、全ては遅かった。
両者の猛攻を受けて、魔族が一体消え去る。途端、アルザ達は即座に驚愕する魔族へ目標を切り替えた。魔法発動の準備はしているが、今のアルザ達ならその魔法をかわして攻撃を叩き込むことができるだろう。
魔族は即座に魔法ではなく接近戦に変更。得物は長剣であり魔法発動のため収束していた魔力を叩き込んだのだが、それと同時にアルザ達が接近する。
周囲に魔物はなおもいたのだが、俺の魔法によって空白地帯ができており、多少強引に攻めても魔物の軍勢から離脱することはできると判断し、突撃する――最初に攻撃したのはアルザ。恐ろしい速度の剣を放ち、魔族はそれを弾き返すのがやっとだった。
そして彼女とニックの剣が突き刺さり……消滅。立て続けに魔族を倒したことで、魔物の足並みにも大きく乱れができ始めた。




