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最強のおっさん魔術師、自分探しの旅をする  作者: 陽山純樹
第八章

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一体感と記憶

 新たな騎士、しかも慌てている様子からさらに魔物が出現したか――会議室内に緊張が走った時、騎士がヘレンへ報告を開始した。


「今し方、連絡がありました。近隣にいた騎士団と戦士団がこちらへ向かい、攻撃を開始すると」


 援軍――ではあるのだが、その言い方が気になった。


「ヘレン、攻撃を開始って指示したのか?」

「してないわ。独断で動くということでしょう」


 おいおい、大丈夫なのか……連携がとれていない状況下で攻撃を仕掛ければ各個撃破される可能性があるぞ。


「さっき言っていた頼もしい味方?」


 アルザがふいに問う。そういえば先ほどヘレンはそう言っていたが、


「そうね」

「砦が攻撃されている状況から、指示を待つより攻撃した方がいいって話みたいだけど」

「ええ、そういう判断を下したのでしょう」


 大丈夫なのか……と尋ねようとした時、ヘレンはさらに続けた。


「でも、そのくらいの裁量権を彼らには持たせているから」


 ――その言葉で、俺はなんとなく察した。


「ヘレン、もしかして戦士団というのは……」

「ええ、そう」


 と、ヘレンはニヤリとなった。


「そのものずばり『暁の扉』と『黒の翼』よ」

「しかもダブルか……セリーナやシュウラは来ているのか?」

「もちろん。遊撃のために動いてくれていたのだけれど、近くにいて助かったわ」


 ……軍勢の規模はわからないが、敵側としては背中から攻撃されるような形になるだろう。現在は後詰めさえ来ているが、陣を構えたところに後方から攻撃されたら士気も下がるだろう。

 砦にいる騎士達はどうすべきか……などと考え始めた時、砦からやや遠く――爆音が聞こえてきた。どうやら始まったらしい。


「早速だな……ヘレン、これに乗じて動くのか?」

「砦から出るには少し準備がいる。たぶん戦士団側はそれを承知で攻撃を仕掛けているとは思うけれど」


 そこでヘレンは近くにいる騎士に指示を飛ばす。どうやら出撃準備を言い渡した。


「ディアス達はいける?」

「問題ない……けど、総大将は魔王候補級だと考えていいだろう。連携をきちんとしなければ倒せないぞ」


 魔族レイオンの時はほとんど単独だったのでどうにかなったが……。


「うん、わかってる。まずは周囲にいる魔族の撃破から」


 ヘレンには頭の中で作戦が浮かんでいるのか、さらに指示を出していく。そうこうする内に砦の中がにわかに騒がしくなった。元々防衛で動き回っていたのだが、それ以上だ。


「ニックには防衛を担当してもらう。ディアスとアルザには前に出てもらうから」

「了解した……タイミングが重要だな」


 どこで出るのか。戦士団――セリーナやシュウラが攻めている間に攻撃を仕掛ければ、挟撃する形に持ち込めるので戦況は大きく有利に傾く。けれど魔物に進撃を押し留められているようなら、突撃しても効果は薄い。

 やがてヘレンは俺達に出撃を言い渡し、俺とアルザは砦の門前へと移動する。開け放つタイミングはヘレンが決めるようだ……で、門の向こう側では魔法が炸裂音が聞こえてくる。城壁の上などから放つ魔法だろう。


 門の前には既に多数の騎士や兵士が準備を済ませ隊列を組んでいた。と、ここで指揮官と思しき騎士がやってくる。


「ディアス殿、準備は?」

「こちらはいつでも……強化魔法の方は大丈夫か? 再度付与する必要性は?」

「問題ありません。ここにいる者達は攻撃ではなく守護に回っていた人員なので」


 ということは、砦内にいる戦力で攻撃をするわけだ。リスクはあるし、敗れれば大きな痛手になるが……ヘレンはセリーナやシュウラを信じ、攻める決断をしたわけだ。


「……英傑」


 ポツリ、とアルザが呟く。


「なんというか、セリーナやシュウラを信頼しているって感じかな?」

「同じ事を考えたか……確かにそうだな。打ち合わせをしたわけではないが、必ずセリーナ達は戦線を維持し、俺達の動きに合わせ攻撃をする……と、考えているわけだ。そこにあるのは間違いなく、信頼だな」

「英傑同士で何かあるの?」

「どうだろうな……わかっていると思うが『六大英傑』は曲者揃いだ。立場も違えばスタンスも違う。各々が自分の目的のために好き勝手やっているような人間……クラウスは除くけど」

「うん、あの人は別格だと思う」

「ただ、そういった面子が一堂に会し魔王と戦った……その記憶はしっかりと胸に刻まれている。あの時の戦い……そこで俺達は一体感を持って戦ったし、あの記憶があるからこそ、絶対にそう動くだろうという確信がある」


 ――セリーナやシュウラは、ヘレンがどう動くかを読んで攻撃を仕掛けた。そして、ヘレンは呼応し反撃に転じようとしている。


「失敗する可能性はもちろんある……けど、今のヘレン達は絶対に大丈夫だろうと考え、作戦を組み立てているのは間違いない」

「英傑の人達にしかわからない感覚かな?」

「英傑、というよりは強大な存在と戦ったからこそ、心を通わせ人となりを知っているため……かな?」


 俺がそう返答した時、とうとう砦の門が開き――騎士達は動き始めた。


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