偵察部隊
「部隊を三つに分けるわ。城を守り固め準備する部隊、転移魔法陣を守護する部隊。そして、偵察を行う部隊」
「……偵察部隊はそれこそ死と隣り合わせだな。ま、そういう時こそ俺達の出番か」
「ディアス、渡した魔力の宝石に余裕はある?」
「ああ、大丈夫。ならアルザやニックは――」
「申し訳ないけれど、他の面々も分担してもらう」
ヘレンは告げる。そこについては予想はできたので、驚きはしない。
「ニック、あなたは本来の仲間と合流して砦の守備を」
「お、わかった。立ち回りはどうする? 誰の指示を仰げばいい?」
「私がやるわ」
「ということは砦の指揮はヘレンがやるのか?」
「ええ、この襲撃は私の落ち度、というのもあるから」
落ち度――と言えるかは微妙ではあるけれど、彼女としては敵の重要拠点を見つけることができなかった、という点は悔しいのかもしれない。
「ミリアさんは引き続きレグトの指揮下に入って転移魔法陣を守って欲しい」
「私でいいのかしら?」
「魔物をさばく能力はレグトから聞いている。私としては非常に満足のいく内容だったし、レグトと一緒に戦ってくれると嬉しい」
その言葉でミリアは頷く。そして、
「残るディアスとアルザはひとまず偵察に。ただ敵の規模を考えるとあまり干渉するのも危ないと思うから、無理はしないで欲しい」
「騎士に犠牲者が出たらまずいだろうからな……共に行動する騎士なんかに最大限の強化を施して……とはいえ、かなり大変そうな仕事だな」
ま、窮地である以上は多少なりともリスクはとらないといけない……俺やアルザがその任を背負うのは、実力的にも当然だろう。
「敵の戦力把握など、情報集めは騎士達がやる」
ヘレンは俺とアルザへ向けそう説明を行う。
「よって、護衛や援護をお願い」
「わかった……すぐに行動開始でいいのか?」
「五分ほど待って欲しい。すぐに隊の準備を整えるから」
敵はなおも近づいてくる。交戦するまで如何ほどかわからないが……余裕はあまりない。五分という時間も、かなり貴重なものだろう。
「敵の情報を取得したら速やかに戻ること。魔王候補クラスの魔物がいれば当然、ディアスとアルザの力も必要だから……申し訳ないけれど、頼んだわよ――」
俺とアルザは騎士と共に砦を出る。とはいえ外に出た場所は軍勢がいる反対側。騎乗するような人員は皆無であり、闇夜の中で動き、魔物の様子を観察することにする。
「相手も夜目は利いているよな……」
騎士達に強化魔法を施し、暗視系の魔法も付与している。魔力を消費しなければ効果が持続するタイプのものであり、明かりもなく活動はできる。
「ひとまず横手に回り、敵の様子を窺うことにしましょう」
と、指揮を執る隊長の騎士は告げる。
「敵は一目散に砦へ向かっています。砦の周辺に雑木林が存在するので、そこに潜伏して様子を見ましょう」
騎士は告げると他の者達に指示を出す……それは、気配を薄くする魔法。おそらく日頃から魔物の巣などを調査している面々なのだろう。調査隊、というわけだが、今回は相手が相手なので見つかればどうなるかわからない。細心の注意を払う必要がある。
俺は騎士の指示に従い黙ってついていく。強化魔法の恩恵により気配を薄くする魔法もより効果的になっているのは間違いない……俺はアルザへ視線を向けた。彼女も黙ったままであるのだが、
「ディアス、私達の出番はありそう?」
「ないことを祈るよ。そもそも交戦した時点で逃げるのも厳しいだろうな……高位魔族、魔王候補級の敵が相手の可能性が高いわけだし」
「決戦術式は?」
「あれはあくまで時間稼ぎ用だ。確かに一時魔族を押し留めることができるかもしれない。でもそれで仕留められなかったら今度こそ終わりだ。消耗した状態で敵うわけがないからな」
アルザの退魔の力を組み合わせれば、対抗できるかもしれないが……いや、多勢に無勢であることを考えれば、交戦だけは絶対に避けた方がいいだろう。
やがて俺達は林の中へ。この時点で魔物の気配は明確に感じ取ることができ、俺達は足音を殺しながら近づいていく……遮音の魔法を使えれば一番なのだが、下手に魔力を拡散すれば見つかる可能性が上がるため、やるべきじゃない。
そして――まだ林の中ではあるが、騎士が立ち止まった。その真正面には、行軍する魔物の群れが。
「気配を探知しつつ、魔族を探しましょう」
重要なのは魔族がどのくらいいるのか。そして力量は如何ほどか……俺は索敵魔法を行使。とはいえ魔力を放出するようなやり方はできないので、あくまで簡素なものだ。
そこで、魔物とは違う気配をいくつも見つけた。この時点で魔族が複数体……攻城戦をやるにしても、魔族の戦い方は脅威であるため、そうした魔族をいかに封殺するかが鍵となる。
俺達の情報は騎士を通してヘレン達にも伝わっており、砦の防備も固めていくはずだが……と、ここで俺は総大将らしき魔族を捉えることに成功した。




