候補について
魔王候補討伐後、俺達はその戦場で待機していたのだが……やがて砦への帰還命令が下った。どうやら一日目が終了らしい。
残っている拠点の魔族はどうするのか、夜はどうするのかという疑問については、転移魔法により砦に戻ってきたレグトから説明が入った。
「既に結界などを展開し、監視態勢を築いています。騎士や兵士も交代要員を動員し、夜を通して動きを観察します」
「交替できるほどの人員がいるとなれば楽だな。ただ、この状況は長く続かないだろ?」
「はい、リソースを考慮すれば五日ほどで限界が来るかと思います」
それを長いと考えるか短いと考えるか……現状の撃破ペースを考えれば、いけそうな気もするが。
「明日以降も同じような形で動いてもらいます。ただ、場合によっては夜の戦闘に入る可能性も」
「休める内にさっさと休んでおいた方がよさそうだな」
「はい、まさしく」
なら、ということで俺達は解散と相成った。食事をしてさっさと寝るか、と思っていると、
「ディアス」
ミリアの声だった。話がある様子なのでひとまず食堂へ向かうことに。
「そっちは問題なかったか?」
「ええ、魔物の討伐だけれど、上手くいけた……貢献できたと思う」
「そうか。明日以降もその調子で頑張ろう」
頷くミリア……で、話というのはおそらく、
「魔族レイオンについて、か?」
「少し、考えてみたいの。付き合ってくれるかしら?」
「ああ、いいぞ」
――俺達は砦内の食堂へ赴き、食事をしつつ話をする。時刻は既に夕刻を迎え……いや、まだ夕刻と表現するべきだろうか。
「ディアス、魔王候補がいるということ自体はどう思う?」
「反魔王同盟なんてものができあがって組織の規模も大きいとくれば、魔王候補の中にも興味を抱く者が現れてもおかしくないし……魔王の真実というのは、魔王候補にとって不都合な話とも言えるから、案外親和性は高いのかもしれない」
「……ええ、そうね」
同じ魔王候補――もっとも候補の中でも端っこではあるみたいだが――であるミリアは、頷く。
「確かに、魔王という存在が単に力を持つ存在が魔界を支配する……なんて単純な話でないのなら、反発だって生まれるでしょう。だからこそ今まで情報が漏れるようなこともなく、魔王という存在が魔界で君臨していた」
「けれどそれに綻びが生じた……」
「そうね。でも時系列を考えると……」
ミリアは口元に手を当てながら思考する。
「ディアス達が魔王を倒すよりもずっと前に反魔王同盟というものが生まれていた、と考えるのが妥当よね?」
「ギリュア大臣と手を組んでいることからも、長い時間を掛けて準備をしていたのは間違いないな。それに、魔王の人間界侵攻は仕組まれたものという話がある以上、反魔王同盟はずっと前から存在する組織だと考えることができそうだ」
「そうね……人間と同様、魔王という存在を中心に権力争いは存在していた。でも時折、どういう経緯で戦うことになったのか首を傾げるような騒動もあった」
「それがもしや、反魔王同盟?」
「今思えば、魔王という存在に対する攻撃だったのかもしれないわね」
「だとすると、思った以上に魔王の真実は知れ渡っている?」
「周知されているレベルではないにしろ、真実を知る同胞は意外に多いのかもしれないわ」
……とはいえ、魔王存命中にそんなことを口にすればたちまち粛清されるのがオチだろう。おそらく反魔王同盟は見えない場所で牙を研ぎ続けてきた。
「そうなると古い組織かつ、規模が大きい可能性が高いわね」
「かもしれないな……それに、組織が古く目的を達成するべく執念を燃やしているのなら、この戦いは予想以上に長引く可能性もある」
俺の言葉にミリアは難しい表情をしながら、
「ええ、そうね……私としてはヘレンさんにその辺りを警告すべきか考えたのだけれど」
「レグトを通じて言った方がいいとは思う……が、ヘレンとしてはギリュア大臣との戦いもある。反魔王同盟の魔族を倒して終わりではない以上、相手の戦力がどうあれ最後の最後まで戦い抜くとは思う」
「大丈夫、かしら?」
「反魔王同盟……現時点で魔界から援軍が来ているわけじゃないから、最後までもつかもしれない。正直そこは賭けだな。そうした中、ヘレンとしては俺達に期待しているんじゃないかと思う」
「私達に?」
「特に俺の強化魔法とかだな。とにかく戦力を増やす施策を用意し、何かあっても対応する……俺が無茶苦茶働く前提の作戦とはいえ、ヘレンはベストを尽くしていると思う。ま、報酬についてはニックと同じく少し要求してもよさそうなくらいは仕事をしているな」
「かも、しれないわね」
「ミリアも、何か気付いたことがあれば言ってくれ。明日以降も作戦は続くわけだが……敵は動き方を変えるかもしれない。こちらが悪手を打てばそれだけまずいことになるだろうから――」




