真実を知る魔族
ミリアとレグトは別所へ移動し、俺とアルザとニック……三人はレイオンという魔族へ挑むために現地へ赴いた。
その戦場は森の中であり、騎士や兵士達が一体の魔族と周囲にいる魔物を取り囲んでいる状況であり、膠着状態となっていた。
「あれか……」
俺は杖を構えつつ魔族を見据える。ミリアが語っていたとおり、銀髪で矛を持つ魔族……まとう気配はまさしく武人のそれであり、魔物で周囲を牽制しながらその中央でどっしりと構えている。
「お?」
と、ここで俺達に気付いた様子の魔族。
「援軍か……さて、少しは骨のある奴なのか?」
「――気に入るかどうかはわからないが」
俺はここで強化魔法を使用する。
「とりあえず、頑張ろうとは思っている」
騎士や兵士達がにわかに活気づく。と、俺の魔法を見たためか魔族は笑い始めた。
「その魔法……どうやら本命が来たみたいだな」
「本命?」
「色々と噂は聞いているぞ。人間界における騒動を解決する人間の存在を……しかもそいつはなんと我らが陛下を打ち破った一人であった」
リサーチはしているか……魔族レイオンは次に俺と共にいるニックとアルザへ目を向けた。
「なおかつ英傑の一人と、退魔の剣士か……ん? 三人組なのは間違いないが、その内の一人は英傑ではなかったはずだぞ?」
「もう一人の仲間は別行動だよ」
「ほうそうか。戦力的な意味合いというよりは、この作戦において別の役割を持たせている、といったところか」
……こちらの動きをどこまで把握しているのか不明だが、この場にいて俺達が来たことでかなり考察できている。
「俺達のことは噂に上っているみたいだな」
「ああそうだ。そっちもある程度情報は得ているのだろう?」
ニヤリとする魔族レイオン……ここで俺は、あえて尋ねてみた。
「なら、質問させてもらうか。あんたは魔王候補だという情報をこっちは得ている。なのに、どうして反魔王同盟なんてものに加わっている?」
「それについては、まあ色々と事情があってのことだな」
「――魔王になりたくないとか、そういうことか?」
その問い掛けに対しレイオンは沈黙する。当てずっぽうで問い掛けた、という様子でないことを察したのか、
「ほう……何か知っている素振りだな」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない……いや、ここで駆け引きするのはあんまり意味はないか。じゃあ訊くが、あんたは魔界や魔王に関する情報を知っているのか?」
――周囲の騎士で反応を示す者はいたが、交戦しているのですぐに表情を戻し目前の魔物に視線を注ぐ。
こっちはあえて婉曲的な表現にしたのだが、レイオンはそれでどうやら俺が魔王の真実というのを知っていると理解したらしい。
「……どうやって辿り着いたのか興味はあるが、まあいい。その問い掛けはイエスだ。だからこそ、俺はここにいる」
「お前らの目的は、力を誇示するためか?」
「そうだ」
「魔王ですら聖王国に勝てなかった……それを倒せば強さの証明になる、か。正直、内輪もめなら魔界でやってくれって話だ」
「ははは、確かに人間界にってはいい迷惑だろう。だがこちらとしても、退くわけにはいかなくてな」
「……そうまでして、今の魔界を否定するのか?」
「わかっているんだろう?」
――真実を知ったことで、魔王という存在をこの世から消すということか。
人間界にとってそれが良いのか悪いのかまったくわからない。ただ、ここで聖王国が無茶苦茶になればそれだけ魔界に利することになるのは間違いない。
「……ま、攻撃をしてくるなら俺達は止めるだけだ」
「そうか。なら早速やるとするか」
絶対の自信を持っているような口調であった。魔王候補であるが故の自信か、それとも俺達の能力を把握した上での考えか。
どちらにせよ、ここで戦わなければ犠牲者が出るだろう。よって、
「アルザ、ニック、覚悟はいいか?」
「とっくにできてる」
「俺もいけるぜ」
大剣を構えるニック。臨戦態勢に入った二人を見て魔族レイオンは口の端を歪ませて、笑う。
「そっちは準備万端だな……さて、楽しませてくれよ?」
――この魔族は確かに自信があるのだろう。けれどそれ以上に強者と戦う……それも、魔王に挑み勝利した人間と戦うことに興奮している様子であった。
反魔王同盟として魔王という地位を潰そうとしているのは間違いないのだろう。けれどそれ以上に、強者との戦いを望んでいる……もしかすると、魔王に挑んだ戦士と戦えるかもしれない、ということから同盟に加わったなんて可能性があるかもしれない。
「……目的を達成して、何をする?」
なんとなく問い掛けてみる。答えが返ってくるか微妙ではあったが、
「そんなもの、決まっている」
魔族はなおも笑みを絶やさぬまま、答える。
「自らの手で理想の世界を作る。それだけだ」
「……わかった。なら、この場で滅ぼさせてもらう」
その直後、魔族はレイオンは矛を構えた。




