近しい存在
レグトが兵士から報告を受けると、すぐさま俺達へ告げた。
「苦戦している場所があるようです。そこへ向かいます」
「了解」
俺の言葉にレグトは小さく笑い、
「そして今日のところはおそらく、この三つ目で終了でしょう……ただ、この三つ目にいる魔族はかなり特徴的だとのこと」
「特徴的?」
「作戦場所は森の中かつ、砦などもなく天幕などが存在しているらしいのですが」
「野宿ってことか?」
「はい、当該の場所は近くに町からも遠いのですが……どうやらそこに、強力な魔族がいたようで」
そう語った後、レグトは苦笑する。
「その場所にいる魔族は一体だけで、なおかつ騎士達の攻撃を知ってむしろ歓迎し名乗りすら上げたようなので……」
「戦いたいってことか?」
「そのようです。魔物を生みだし暴れ回っているとのこと。現在深追いはしていないので犠牲者は出ていないのですが……」
語る間にレグトはミリアを一瞥した。
「ちなみに名はレイオンとのことですが、聞き覚えとかありますか?」
その質問は情報が得られるかそう期待しているものではなかったのだが……ミリアは予想外の反応を示した。
「レイオンって……もしかして、レイオン=ザーナデルクのこと?」
「ああ、報告によるとそう名乗っているようですね」
「立たせるくらい短い銀髪に、矛を持っている魔族?」
「え、ええ。報告ではそのように」
沈黙するミリア。知っているみたいだし、口ぶりからすると有名なのか?
「ミリア、その魔族は?」
「……魔王候補の一人よ」
――思わぬ単語が出てきて今度は俺達が逆に沈黙した。
「しかも、私みたいに候補とはいえ凡百のそれとは違う。正真正銘、現在の魔族において魔王に至るだけの実力と地位を持っている存在」
「……なるほど、魔王に近しい存在ということか」
警戒を込めた俺の発言に対し、ミリアは小さく頷いた。
「ちなみにだがミリア、レイオンという魔族はミリアのことを知っているのか?」
「ええ、相手も私のことは見覚えがあるはずよ」
「なら今回、ミリアは留守番だな」
先ほど、見知った魔族の存在について語ったことを思い出しつつ俺は言う。
「あるいは、別のことをやってもらうか……不安はあるだろうけど」
「ならば、他の戦場の支援はどうでしょうか?」
と、ふいにレグトが提案を行った。
「別所では魔族ではなく魔物ばかりが存在している場所があります。今回、私はそちらへ向かおうとかと思いますので、ミリアさんが手を貸してくれるとありがたい」
「魔物ばかり……そこに魔族はいないのか?」
「どうやら騎士達が攻撃を仕掛けた時点で退却したようなので。追討部隊が動いてはいますが、現場には魔物が多数いるため、そちらの対処に追われている状況。そこは魔物の生成場所だったのでしょう」
「なるほど……ミリアを知っている魔族の存在もあるし、ここは二手に分かれた方がよさそうだ」
俺の言葉に仲間やニックは頷いた……よし、であれば、
「レグト、俺達は誰の指揮下に入る?」
「現地には私と同様にヘレン様に仕える人間がいますので、その人物に指示を仰いでください」
「レグトと一緒に行くのはミリアだけでいいか?」
「はい、ミリアさんの情報からすれば、相手は相当な使い手です……なぜ反魔王同盟と手を組んでいるのかは不明ですが――」
「真実を知ったのであれば、それを否定したいと思うのは確かだ」
俺はレグトへそう述べた後、
「どういう目的で反魔王同盟に加わっているのか……その辺りを問い質すのも一つだな。もしかすると、俺達が手に入れた真実について、何かしら言及があるかもしれない。ただ、やることはシンプルだ。そいつが高位魔族であっても、戦って倒す」
「相手はかなり強そうだ。この三人でどうにかできるか?」
ニックからの問い掛け。相手の実力を見ていないのでなんとも言えないが、
「このまま待機していればいずれ、犠牲者だって出るかもしれない。まずは戦ってみて判断するしかなさそうだ」
「他の作戦地点とも情報は共有しています。いずれ攻略した場所から騎士がやってくる」
レグトはそう述べると、俺と向かい合った。
「強化魔法については限度もあるでしょうけれど、ここが正念場のようですし、リソースを注いでも構わないかと」
「……なら、騎士や兵士を強化するのはもちろんのこと、ニックやアルザにはとびきりの強化魔法を注ぐか。それで勝てるかどうかはわからないが――」
ニックやアルザの表情は、不敵なものへと変わる。相手がなんであれ、ディアスの支援あれば――という考えでいるのがわかる。
「期待にどこまで応えられるかわからないけど、まあ頑張るよ」
そんな発言に対しニックは「頼むぞ」と告げ――やがて俺達は移動を開始したのだった。




