魔族包囲
騎士レグトが魔族を倒し高位魔族へ剣先を向けた時、魔族はなおもニックとの戦いに集中していた。
しかし、ニックは魔族の刃を完璧に防いでおり、怪我もない状態。相手からすれば交戦する前の時点と比べても明らかに状況は悪くなっており、至極面倒だろう。
残っている魔物を生成する魔族も、撃破速度の方が上回っているため騎士達がそう遠くない内に魔物を倒し魔族も……となれば高位魔族は孤立するのみ。そうなったら魔族としては逃げ以外の選択肢はなくなる。
逃げられると面倒だが、高位魔族は現段階でも俺達を侮っている――他の魔族は弱すぎてどうにもならなかったが自分だけは違う。そんな風に思っているのがなんとなくわかった。
このまま交戦すればおそらく勝てるとは思う……が、取り逃がさないようにするためには一工夫必要だ。結界などを構築して退路を塞ぐか、それとも相手が逃げようと動き出す前に仕留めるか。
結界については、正直今から構築している暇はない。よって、動き出す前に仕留める方法しかないが……ニックの動きが変わる。
「決着をつけようか!」
声を張り上げながらニックの動きがさらに増した。ここに至り高位魔族は相手をするニックを面倒だと感じたことだろう……守勢に回り、剣を受け流し距離を置こうとするのが如実にわかった。
ならばそれを止めるのが……俺達の役目だ。
まずいち早く仕掛けたのが俺。先ほど魔族を瞬殺したほどの威力は出せないが、無詠唱による魔法でそれなりの威力を出せた。
俺は何の迷いもなく雷撃を解き放ち、それは高位魔族へとあっさりと突き刺さった。途端、俺へ首を向けようした……が、それよりも先にニックの攻撃がとうとう高位魔族へと当たった。豪快な一撃だが、浅かったか感じ取れるほど魔力が減じたわけではない。
「ちっ……!」
舌打ちと共に高位魔族は足を後方へと移した。囲まれている状況を脱したいと考えたのだろう――ここで今度はミリアの剣が届いた。ニックが攻撃したタイミングより一歩遅れ、彼女の刃が魔族の体を通過する。
「っ……!」
痛みがあったのかは不明だが、斬撃を受けて不快感を覚えたらしくそうした気配がにじみ出た。次いで今度はレグトの剣。的確に肩を狙った剣戟に魔族の体が多少なりとも動いた。
そして、最後にアルザの退魔の能力……とはいえ、まだ手の内は見せていない。油断させるべく、ギリギリまで粘って退魔の力を発動させようという魂胆だった。
高位魔族としては、この流れはまさしくこちらの作戦だと感じたことだろう――状況を脱して退却したいところのはずだが――ここで再び雷撃を放ち、それが直撃した。
高位魔族の動きがさらに鈍った。その瞬間、ミリア達が再び攻勢に出た。追撃の剣戟を浴びせようとする中、さらにアルザの退魔が、しかと剣に収束した。
「なっ……!?」
ここに至りようやく高位魔族も気付いた様子。すなわち、この攻撃は自身を滅ぼすものであると。
察すると魔族の変わり身は早かったが、全てが遅かった。次の瞬間、アルザ達の攻撃が全て魔族へと叩き込まれた。それによって生じたのは、魔族から魔力の放出――攻撃を身に受けて耐えられず、その表情は恐怖に染まっていた。
「馬鹿、な――」
それでもどうにか声を上げたが、抵抗らしい抵抗を示すこともなく高位魔族は消え去った。そして、魔物を生成する魔族も騎士達が撃破することに成功。
残っているのは魔物だが……即座にレグトが殲滅を指示。騎士達はそれに呼応するように動き始める。
「どうにかなったな」
俺はそうコメントして……仲間達を見回す。全員無傷かつ、騎士にも被害はない。
傍から見れば高位魔族が油断した事による自滅……みたいな感じではあるが、上手いことこちらの能力を悟らせないよう立ち回っていたことも大きいな。
「ま、あの手合いは慣れているからな」
と、ニックは笑みを浮かべながら告げる。
「人間を侮っている輩は、こっちの力を悟らせないように立ち回れば簡単に勝てる」
「とはいえ、少しでも魔族が気を引き締めていればどうなるかわからなかったな」
勝つことはできたと思うが、ここまで完璧に対処することはできなかっただろう……息をついた後、俺はミリアへ顔を向ける。
「ミリアの方も上手いこと合わせてくれたな。わざと魔力は発しなかっただろ?」
「ええ、アルザの動きなどを見ていて、能力を悟らせないように立ち回っているのだろう、と直感したわ」
「相手が人間のことをリサーチしていなければこうした手も使える……が、いつも有効というわけじゃない。とにかく魔族を見てどういう作戦にすべきか瞬時に判断する……って感じかな」
「あれほどの力を持つ魔族が、他にもいるかしら?」
ミリアの問い掛けに俺は肩をすくめつつ、
「それはわからない……が、反魔王同盟もそれなりの戦力を投じているだろう。もし幹部級の魔族がいるとしたら、その場所は激戦地になるだろうな――」




