魔族の出方
「――ディアス、今回の戦いをどう見る?」
砦の外へ出て、騎士達が作業をしているのを眺めながらニックが問い掛けてきた。
「今回の作戦、それこそ王都襲撃などとも関係しているわけだろ? にしては敵が弱いようにも思えるんだが」
……確かに、王都を攻撃した魔族の軍勢は規模も総大将の能力も高かった。けれど今回の作戦で戦った魔族は魔物の生成能力があるにしろ、個々の能力としてはさほど、といったところ……まあ、これはあくまで俺やニックが戦って感じたものなので、騎士や兵士は別の感想を抱くだろう。
「王都への攻撃は、それこそ反魔王同盟において精鋭クラスがいたんだとは思う」
俺は砦を眺めながらニックへ告げる。
「英傑が複数いて、もっとも防備が厚い場所を狙うんだから、大臣から何かしら情報をもらって裏をかけるにしても、相当な戦力を用意するだろ」
「それはまあ、当然だな」
「で、今回は……たぶん、反魔王同盟としては色々騒動があって策が潰されているから、状況を打開するために仕込みをしているような段階だった。戦争をするのと謀略を行うのとでは必要な戦力は違う。この場にいた魔族は、裏方仕事をやるために人間界へ派遣された魔族なんだと思う」
「つまり、戦闘能力は高くないと。そうであれば納得はいくな……個々の能力は決して高くないが、砦を守る結界はなかなかに強固だったし、魔物の生成速度も俺達が来なければ騎士の進軍を確実に止めていた」
「ああ。俺達が来たことで難なく対処できた……けど、能力の高い魔族が一体でもいた場合、勝負はどう転ぶかわからなかった」
「気を引き締めないと、ってわけだな……ま、油断する気は毛頭ないぞ」
ニックの目は鋭い。最初の戦いで「楽勝だ」と油断してしまう雰囲気はない。
「ただ、ヘレンが見つけた魔族の拠点というのは全部が全部こうなのか?」
「どうだろうな。謀略を行うにしても、役割というものがあるだろう。人間社会に溶け込み工作活動をする者や、ダンジョンを作成しようと動く者まで、やり方はいくらでもある。ただ、共通しているのは魔物を生成できる……そうした能力に特化した魔族がいるだろう、ということ。どういうやり方で聖王国へ侵攻するにしても、魔物を使うのは間違いないだろうから」
「今回くらいの魔物であれば楽勝なんだが……ま、そうもいかないんだろうな」
「どこかに、大将級の魔族がいる可能性はあるだろうな」
「ああ、違いない」
俺の言葉にニックは深々と頷いた。
「最初に索敵する段階で気づければいいんだが……今回は問題ないだろうと判断できて踏み込めたが……」
「もし危ないとわかったらすぐに引き下がってくれよ」
「ああ、もちろんだ」
そうした会話をしつつ……俺達は、騎士達の作業を延々と眺め続けた。
やがてレグトから次の場所へ向かうよう通達を受ける。すぐさま彼と共に俺達は移動を開始した。
「こっちは転移魔法を使っている」
と、ニックは歩きながら俺へ話し始めた。
「一方で魔族はたぶん、そういうことをしていないだろ」
「まあ……今回討伐した魔族の拠点、砦の中にそれらしい術式は存在していなかったな」
「ということは、情報戦についても優位なんじゃないのか?」
「――その点については、一考の余地がありますね」
俺達の会話に割って入る形でレグトが告げた。
「転移によって各拠点に移動することはできないでしょうけれど、遠距離のやりとりはできる、という可能性は残されています」
「そういう魔法があるってことか?」
「はい。例えば戦場などでは大将級の魔族が魔物を率いる魔族へ魔力を飛ばしてやりとりをしています。反魔王同盟に所属する魔族達は人間界に潜り込み活動している以上、そういった魔法を改良して何かしら魔力を利用しての通信を行っている可能性は十二分にあるかと」
そこまで語るとレグトは一度言葉を切り、
「……敵がそうした手段を保有しているかどうかについては、次の戦場を訪れた段階でわかるかと」
「拠点が一つ潰されている以上、連絡がいっていれば魔族の出方も変わるだろうと」
俺の言葉にレグトは頷きつつ、
「とはいえ、こちらのやることは変わりありません。皆様、引き続きご協力のほど、よろしくお願いします」
そこで会話は終了。あとは転移魔法陣まで黙々と進んでいく。
――その中で俺は考える。最初の戦いはニックの活躍もあってずいぶんと楽に勝利できた。しかし、魔族の動き方次第では苦戦する可能性もあり得た……高位魔族が相手ではないにしても、複数体いる以上、気を抜くことはできない。
次の戦場でも同じように騎士達を強化してニックが攻勢に出る……魔族の能力は如何ほどか。高位魔族でないにしても、特殊能力を有しているだけでも状況は大きく変わる。
レグトが次の場所へ向かう旨を告げた際、切羽詰まった様子はなかったので作戦自体は順調なのだろう。しかし……俺は思案しつつ、仲間と共に歩き続けた。




