大規模作戦
「拠点としている魔族の居場所はバラバラで、一つの拠点を潰して別の拠点――という風に動くにしろ、移動に時間が必要です」
「何か対応策が?」
俺の問い掛けにレグトは頷き、
「転移魔法陣を使用します」
転移――その言葉で俺もニックも無言となる。驚きの沈黙だった。
転移魔法――とある地点ととある地点を一瞬で移動できる魔法のこと。こうした広範囲における作戦においては絶大な効果を発揮する。
転移魔法陣の規模がどれほどかわからないが、転戦させるということであるなら、それなりに大きいものを用意し結構な人数を転移させることができるのだろう……ただ、
「どれだけの資材を投入したんだ?」
その問い掛けに騎士レグトは苦笑する……ヘレンを支援しているという人物が提供したのかもしれないが、それにしたって相当力を入れている。
――転移魔法は非常に便利であり、誰でも利用したいと思うところだが、実用するにはいくつもの壁がある。まず、転移に使用される魔力は非常に多く、霊脈を利用する方法しか現状では安定しないこと。よって色んな場所に設置、というのが難しい。
二つ目は、何より魔法を使用する手段。霊脈で使用する魔力はあくまで拠点間を移動するために必要なもの。転移する人間はそれぞれ自前の魔力で移動するための魔法を発動させなければならない。
魔法の構築そのものは転移魔法陣によって行われるため、魔法の知識がない人でも使用可能なのだが、結構な魔力を要求される……それは下手すると全身疲労で立てなくなるくらいのレベルであり、戦闘などすることはできない。
そこで用意するのが、転移をする際に触媒を利用すること。言ってみれば必要な魔力を肩代わりする物を用意するというわけだ。
それは例えば、俺が強化魔法を使用する際に使う宝石などが該当するのだが……、
「今回の作戦、国の予算とか出ているのか?」
「転移魔法陣の運用にあたって、必要な資材などは国側から提供されています……が、それだけではさすがに足りない部分もある」
「不足分は自前でってことか……ニック、追加でボーナスをもらうにしても、結構厳しいかもしれないぞ?」
「まあまあ、ヘレンが今回の作戦で活躍して大臣の席にでも着くことになったら、金なんて思いのままだろう」
「お前なあ……」
「ははは、冗談はともかくとしてだ。国がある程度資材を投入しているってことは、反魔王同盟は相当面倒な相手だと認識しているわけだ」
ニックの言葉にレグトは一度大きく頷いた。
「はい、王都襲撃から始まり聖王国内で様々な騒動を巻き起こしていることを踏まえると、相当なリソースを投入するのは当然かと」
「これ、色々と妨害もあったんじゃないか?」
ギリュア大臣がこういった行動を許すのかどうか……と思ったら、
「いえ、大臣の方々は全員賛同されていますよ」
「……ギリュア大臣としては、ここで下手に否定意見を出せば怪しまれると考えたか」
「あるいは、大臣自身魔族が作戦に対処できないのであれば、利用価値がない……などと考えていてもおかしくありません」
ありそうだな……俺はなるほどと頷いていると、レグトは大臣について言及した。
「今回の作戦は表向きのものと秘匿されたもの、二種類があります。ヘレン様は当然、秘匿された作戦を遂行するために動く……大規模な作戦かつ、リアルタイムで騎士達の情報を追うのは難しいため、多少ヘレン様が暴れても、まあバレることはないでしょう」
「相当大きい作戦だから、誤魔化せるというわけだな」
「はい。そして、反魔王同盟だけを対処した場合……それではギリュア大臣は無傷でしょう。反魔王同盟との関係性を断ち切って終わり……ただし、これまで得た研究成果を全て奪うくらいのことはするはずです」
「もし次に似たようなことをするとしたら、より狡猾に……より凶悪になるわけだ」
「まさしく。今回、大臣を倒せる手前まで来ています。おそらくここまで肉薄することはないというくらいに……だからこそ、ヘレン様は自らの手で作戦を遂行しようとしている」
「その気合いの入れようが裏目にならなければいいが」
――もっとも、俺はそう心配していない。彼女だって『六大英傑』の一人であり、魔王に挑んだ実績がある。その胆力があれば、十分乗り越えられるプレッシャーだろう。
「……今から、赴く戦地について説明します」
やがてレグトが続きを語る。
「状況に応じ、転移魔法陣を使って援護を行う……連絡手段についてもある程度構築しています。遠隔でも会話ができるような手はずも整っている……ですが、触媒を利用する転移であるため、個々の転移回数には限度がある。その中でディアスさんとニックさんには、より多くの触媒を持っていただき転戦することになります。どうかご協力をお願いします――」




