二正面作戦
――そうして時間は経過し、いよいよ作戦が開始される。出撃当日、俺達とニックはまず会議室へ呼ばれ、今回の作戦を行う騎士と顔を合わせることになったのだが、
「……あれ?」
俺はその人物が見覚えがあり声を上げた。
「レグトじゃないか」
「お久しぶりです、ディアスさん」
――ヘレンの側近の一人であり、魔王との戦いでも共に戦った騎士だ。赤い髪を持つ騎士であり、時に彼女の背中を守るほどの実力者である。
「反魔王同盟の魔族……それを打倒する作戦ということで、ヘレン様は私に指揮を命じられました」
「そっか。レグトならこちらとしても安心だ……ちなみに、ヘレンの配下は他にもいるのか?」
「ええ。部隊を指揮する役割として組み込まれています……が、多くはギリュア大臣を倒すための作戦に入っています」
そこまで語るとレグトは微笑を浮かべた。
「指揮官ではありますが、私も前線へ出ます。表向きの指揮官はヘレン様ですので」
「相手は多数の魔族であるため、レグトなんかを前線に立たせることで、本気で戦おうという姿勢を内外に見せる……それによって大臣の目を誤魔化すと」
俺の言葉にレグトは頷いた。
――当たり前だが、今回の作戦についてはクラウスを含め騎士達は把握し、国側も知っている。でなければ複数の魔族との交戦を大きな範囲で、というのはできない。
その陣頭に立っているのは『六大英傑』の一人であり、王族のヘレン。この人選については問題ないし、国側としても納得がいくだろう。ギリュア大臣だって表向きは承知するはずだ。
けれど、彼女の配下である人員がまったくそうした戦いで姿を現さないとなったら……さすがに大臣側も何か変だと気付くだろう。よって、レグトなどといった側近クラスの人員を反魔王同盟の魔族討伐に回すことで、相当戦力を傾けている、という風に見せかけるわけだ。
「作戦の範囲が大きいためヘレン様に従う騎士だけで全てをカバーできるわけではありませんが、要所は押さえています」
「何かあった時、レグト達が対応できるように、か」
「はい。今回の作戦は非常に難しい……敵が逃げる可能性を考慮すれば、反魔王同盟に関連する魔族を全て滅ぼすことができるかどうかは不明です。けれど、大きな結果を出さなければ勝利はない……よって、可能な限り柔軟に動けるような布陣となりました」
と、ここでレグトは一度言葉を切る。
「しかし、無論のこと大臣を打倒するための戦力も必要です……よって、選定には非常に気を遣いましたが、ヘレン王女ならばこの戦力でいけるだろう、という判断の下に二正面作戦を遂行します」
「戦力的に難しいみたいだが……こちらの作戦が終われば、当然ヘレン達の加勢に行ってもいいんだよな?」
「はい。しかし、さすがにこちらが先に決着とはさすがに難しいと思います――」
そこまで言った時、レグトは口が止まった。その視線は俺とニックの両名に向けられる。
「……思いますが、お二方の実力を鑑みれば、不可能ではないかもしれませんね」
「ニック、レグトはこう言っているがどう思う?」
「なあ、ヘレンにも手を貸したら報酬は上積みされるのか?」
「依頼の規定にはありませんが、臨時ボーナスが入ることは確定かと」
「そうか……想定以上の仕事をすれば、ちょっとくらい無茶な報酬を要望しても問題なさそうかな?」
「強欲だなあ……」
俺が横から言うと、ニックは「何を言う」と告げ、
「こういう時に王族からとらないと、安く見られるぞ」
「そんなものか……?」
「決して最近、ダンジョン攻略の実入りが寂しいから、という理由では断じてないぞ」
「……そうか」
なんだか大変だなあ、と思っているとレグトは苦笑し、
「私の方からヘレン様に掛け合ってみます。とはいえ、さすがに何もかも思いのままというのは難しいかと」
「わかってるわかってる。ちょっとダンジョン攻略に欲しい物があってだな。懐具合から諦めようかと思っていたんだが、この仕事をこなせばいけそうだな」
「……ほどほどにしとけよ」
俺はそう告げた後、レグトへ向け口を開く。
「悪い、話を進めてくれ」
「はい。現在判明している魔族の拠点は全部で十箇所。それらを同時に攻撃し、撃破するというのが作戦のおおまかな主旨になります。とはいえ、魔族の能力はバラバラかつ、応戦の仕方によって同時に撃破というのは困難でしょう。よって、ディアス様達には転戦してもらい、拠点を潰していって欲しい」
「俺の強化魔法を使って、か?」
「もちろん、ディアス様達が動かずとも作戦が成功するよう準備はしています。しかし相手は魔族。不測の事態はあってしかるべきであり、長期戦も見据えて対応を行います」
長期戦……相当な準備をしているな。俺が頷くと、レグトはさらに話を進めた。




