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最強のおっさん魔術師、自分探しの旅をする  作者: 陽山純樹
第八章

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自由な戦士

 ヘレンから要求された武器の強化による支援については、作業を開始して二日後にはどうにか目処が立った。試しに魔法を使用したところ、上手いこと機能してくれたので、ヘレンも「これでよし」と太鼓判を押し、俺のやることは終了した。


 一方でミリアとアルザについてだが……両者は剣の訓練をするために騎士に混ざって色々やっていた。騒動を一つ片付けた後はひたすら資料漁りと食べ歩きをやっていた身なので、鈍っているであろう体を鍛え直すという意味合いがあった……らしいのだが、


「アルザは当然として」


 そんな訓練風景を見ていたヘレンは、たまたま近くを通りがかった俺へと言う。


「ミリアさんも相当強くなっているわね」


 ――目前に広がるのは、死屍累々となった騎士達と、何事もなかったかのように立つアルザとミリアの姿。二人の実力が高かったこともあり、二人を軸にしたスパーリングをやったみたいなのだが、騎士達は束になっても勝てなかったらしい。


「というかヘレン。この状況はよろしくないのでは?」


 淡々と語るヘレンに対し、俺はそう言及した。


「だって騎士達がボロ負けしているわけだろ?」

「そもそも実力差が相当あるからねえ。アルザ達の修行内容を聞いたけど、剣に魔法に相当な練度で鍛練を積んできたみたいだし、いかに常日頃訓練している騎士であっても、質的に差があればどうにもならないわよ」


 やれやれといった雰囲気でヘレンは話す。


「それに、騎士達は本来集団戦の方が重要だし、むしろ突出して強いと逆に浮いて連携に支障を来す、なんてこともあるし」

「単に強いだけでもまずいのか……」

「うん。あと、実力者は引き抜かれているケースも多いからね」

「王都で近衛騎士とかやるのか?」

「そうそう」


 なるほどなあ。地方の騎士達は連携で不足している強さを補う、と。


「連携さえできれば、今回の作戦も問題なく遂行できる……で、いいんだよな?」

「そう思ってもらっていいよ。それに、騎士達にはいい刺激になっていると思う。これだけの実力者と一戦交えるのは貴重だからね」

「刺激ねえ……」


 バテて地面に倒れている騎士達を見て、大丈夫なのかと思うところだが……まあいいや。ヘレンが問題ないと判断しているのだ。それを信じよう。


「それでディアス。予定通り出発することになったから」

「わかった……ヘレンも同行するのか?」

「残念ながら今回はなし。代わりにニックが一緒になるよ」

「代わりかどうかは微妙だな」

「呼んだか?」


 背後からニックの声。見れば騎士達の姿を見て笑う彼の姿が。


「いやあ、砦上階の窓から眺めていたんだが、ちぎっては投げちぎっては投げ、といった案配で成敗していったな。見事だ」

「で、自分も相手してもらおうと来たか?」

「いやいや、ディアスが散歩しているのを見て下りてきただけだ。そっちは作業、終わったのか?」

「一応な」

「ちなみに俺に対する強化魔法は?」

「従来通りのやつの簡易版であれば使うけど」

「従来通り……確か魔王との戦いで使用したやつか?」

「ああ。ニックのことはよく知っているから、簡易的であっても相応の強化ができるぞ」


 俺の言葉にニックは考え始める……のだが、


「それ、アルザやミリアさんにもやるのか?」

「ああ、もちろん。まあ、魔族の能力次第では援護は必要ないかもしれないけどな」


 まあ、付与しておいて損はないだろう……やがてニックは「頼む」と告げ、俺は了承する。


「ニック、何か話し合っておくか? 作戦の段取りとか」

「魔族がどういう風に立ち回るのかわからない以上、限界があるだろ。ま、出たとこ勝負しかないだろうし、打ち合わせはなくてもいいだろ……ヘレン」


 ここでニックは話の矛先を彼女へ向けた。


「確認なんだが、俺の立ち回りは自由でいいだろ?」

「……無茶な行動をするつもりなら、さすがに止めるわよ?」

「しないさ、そんなこと。ただ、俺とディアス達を一緒に行動させるより、戦場をかき回す人間が増えた方がいいだろ?」


 ――ヘレンはそこでどうやら、何が言いたいのか理解した様子だった。


「なるほど、ニックの動きについてこれる人を選抜してくれって話ね」

「そうだ」

「正直、ニックが暴れ回るならどんな騎士を選んでも無理そうだけど……まあいいわ。可能な限りやってみる」

「頼むぜ」


 と、ニックは笑みを浮かべながら俺達へ語る。


「詳しい作戦とかはそっちに任せる。俺はむしろ、指示を受けて暴れ回った方がいいだろ」

「だ、そうだけどヘレンはどう思う?」

「……ま、ニックのその方が向いているか。魔族を倒す作戦を指揮する人間に、後で伝えておくよ」

「おう、頼むぜ」


 快活な笑顔で応じるニック……なんというか、本当に自由だなと、俺は苦笑しつつ思ったのだった。


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