別のアプローチ
「ディアスが一番気になっているのは、ギリュアがどういう立場なのか、ってところかな?」
砦内に存在する食堂を訪れ、俺とヘレンは話を始める。王女と魔王に挑んだ戦士……俺の異名を知っている騎士とかなら、何事かと思いそうな状況ではあるが、こちらに目線を向ける人の姿はない。
「あー、まあそうだな……といっても絶大な影響力を持っていることだけはわかるよ」
「うんうん、確かに政治を司る人間の中で、ギリュアは相当な権力を持ってはいる……けど、つい最近その状況に変化が生まれた」
「変化?」
「具体的に言うと魔王との戦い前と後で」
……俺は戦士団のメンバーと集まって宴会をしていたわけだが、どうやらそれと同時並行で政治的な騒動が持ち上がっていたらしい。
「元々、ギリュアは軍費を拡張することに難色を示していた人だったから、魔王との戦いによってそれみたことか、なんて言われるようになった」
「……ふむ、それだけ聞くとギリュア大臣としては劣勢に聞こえるけど……反魔王同盟という存在があることから、話はややこしくならないか?」
「うん、そうだね……ひとまず政治的な状況から話をすると、私を支援してくれている人は、魔王及び魔族の脅威を説いていた人で、結果的に王族からも評価が上がって重要な役職に就いた」
「昇進、というわけか」
「うん。そしてギリュアほどではないにしろ権力を得ることにも成功した……彼としてはあんまり面白くない展開だっただろうね。そもそもギリュア自身が王室と距離を置いている存在だから」
「別に現在の王国のあり方を否定しているわけじゃないだろ?」
「うん、別に国王を排するようなことはしていない……でも、傀儡くらいにはしてやろうという思惑はあったかもしれないし、実際に事は運んでいたみたい」
おいおい……もし魔王の侵攻がなかったら、大臣はさらに強固な権力を得ていたということか?
「でも、魔王との戦いで状況は変わった」
「……政治の上では魔王との戦いをきっかけにして勢力図に変化が起きた、と解釈するだけでいいけど、反魔王同盟の存在が話をややこしくさせるな」
「政治的には、ギリュアの狙いとはかけ離れたことをしているからね……でも、ギリュアはおそらく別のアプローチを考えている」
「別の……アプローチ?」
「彼は一概に軍縮をしようというわけじゃなくて、騎士を多数配備するというやり方は財政を圧迫するから避けろという主張だった。よって、騎士とは異なる別の組織……名前は忘れたけど、とにかくそうした組織を結成し、騎士の人数を減らすことで出費を抑える……で、おそらくだけどこの組織設立をギリュアが主導し、今回の混乱……魔王との戦いの後に発生した一連の事件を解決してみせよう、と目論んでいるんじゃないかな」
「ギリュアが発案した組織が活躍すれば、無駄な騎士はいらない。出費も抑えられ、財政もよくなる……というわけか」
「そうそう」
「現在の聖王国を考えれば、騎士は多くいた方が秩序は保たれると思うけど……かといって、こんなところに砦は必要か? みたいなケースもあるからなあ」
「ディアスの言うことは同意するよ。現在の制度で無駄がないとは言わない。悪いところはちゃんと反省して、システムは構築していかないといけない……けどまあ、そこは偉い人に任せるとして」
さすがに関与はできないらしい……ヘレンは話を進める。
「で、活躍した組織を主導したことによって騎士なんかも自分好みに変えられる。そうやって支持者を増やしていく……というのが、最終目標だったんじゃないかな、と」
「俺からするとずいぶん遠大な計画に思えるな……仮に今の騒動が大臣の組織によって解決するとなっても、目論見が達成するまで数年はかかるだろ」
「それでいいんだよ。別にあの人は半年や一年で結果を出そうとは思っていない。そもそも、これで結果を出せなくても別の手段があるから、とでも言うだろうね」
……種を色々蒔いて、芽が出たものを利用する、ということか。
ギリュアの計画をヘレンは語ってみせたわけだが、仮にそういう目論見だったとしてもおそらくこれは策の一つであり、他にも色々と手は打ってあるのだろう……そして結果を出したものだけを使い、権力を得ていく――
「ヘレンの言うことが正しいとして、だ」
俺は話を進めることに。
「そうなると反魔王同盟という存在はどういう狙いで大臣と協力している? 大臣の意図がそういうことなら、そもそも手を組む理由がないんじゃないか? 最終的には成敗されるわけだろ?」
「どこまで計算通りなのかは私にもわからないけど、おそらく段取りはこう」
と、ヘレンはどこか確信を持った声音で告げる。
「現状、ディアスなんかが騒動に関与していなかったら大きく被害が出ていた。大臣は、被害が生まれて欲しいんだよ。それで魔族達は力を示し、犠牲が出た後で颯爽と大臣関与の組織が出て活躍すれば……双方の目的が達成される――」




