便利屋
「話を進めるわね」
ヘレンは俺達へそう言うと、続きを語る。
「他の『六大英傑』……残っているセリーナとシュウラだけど、両者には王都を出てもらって機動的に動けるようお願いした」
「反魔王同盟の動きに合わせて動く、ってことか」
俺はそう呟いた後、腕組みをしながらヘレンは尋ねた。
「それはセリーナとシュウラの能力を鑑みて? それとも、戦士団としての能力を考慮して?」
「両方。国からしても両戦士団は相当頑張ってくれているとわかっているし、頼っているところもある」
ほう、そうか……セリーナ達は魔王を倒した後、団員が大きく減ったらしいけど、持ち直したのかな。
「ヘレン、戦士団『暁の扉』って、今団員増えているのか?」
「ん? ああ、ディアスがいなくなって大変だったという話?」
「そうだ」
「団員そのものは少しずつ増えているみたいね。魔王との戦い前と比べればまだ少ないようだけど」
「そうか……」
「でもセリーナの運営能力はさすがの一言だし、今の調子なら今回の作戦をきっかけにして戦士団の規模も元通りになるかもしれないね」
「わかった、ありがとう」
「で、残るニックと、七人目の英傑であるディアスはこの周辺にいる魔族を倒す」
「おー」
と、掛け声一つニックが応じる。
「出番があるのはいいが、俺はディアスと組むのか?」
「騎士と一緒に行動して欲しい。ニックなら単独行動でも問題ないでしょう?」
「ああ、平気だが……連携とかは大丈夫そうなのか?」
「その点についてはこれから詰める。仲間を借りているのは申し訳ないと思うけど……」
「ヘレンの無茶は今に始まったことじゃないからいいさ。だとすると、ディアスは?」
「ディアスの方はひとまず三人で……とはいえ、私としてはディアスに期待しているから」
「……あー」
俺は以前――先日、反魔王同盟の魔族と戦った時のことを思い出す。
「あれか、俺の強化魔法が上手く運用できるよう、見定めていたな?」
「正解」
「抜け目がないな、まったく……でも、今回の作戦は相当大規模だろ? 前みたいに霊脈の魔力を利用して、というのは厳しいんじゃないか?」
「さすがにいちいち霊脈を探して、騎士を強化して……なんて煩わしいし、ディアスも大変だろうからやらないわよ。ただ、ヒントはある。以前の戦いでディアスは魔力を観察し、色分けして強化魔法を使用していたわよね?」
「ああ、そうだな」
「それを応用できるか確認したいのだけれど」
「応用……というと?」
「例えばディアス、人の魔力を観察して、特性を見いだすのではなく、武器なんかに付与できない?」
……その言葉で俺は何がやりたいのかを察する。
「装備品は統一しているから、その武器を強化する手段はできないか、ということか」
「うん」
対象者の魔力を引き上げるのではなく、武具に魔法を……思考し始める。
俺の強化魔法は基本、対象者の潜在能力を高めるために体に影響を与えるものを採用している。とはいえ、武器に対して付与できないわけじゃない。そもそも、敵と交戦して攻撃を杖で受けるなどした際、魔力によって杖そのものを強化している。だから、やり方を単純に変えれば可能だ。
「できるとは思うけど……ただ、武器を強化するにしても対象を変えるだけでは、霊脈などの魔力供給手段は必要になるぞ。でなければ、いつもの簡易的な強化魔法と変わらない」
「魔力を供給する手段はある」
「……霊脈以外で?」
「そう。その問題さえ解決できれば、装備品に付与することで、共に戦う騎士が変わっても対応できるでしょ?」
「まあ、それなら……ただ、ヘレンが満足するような強化魔法を構築するのであれば、多少なりとも準備が必要だ」
「どのくらい?」
「検証とかを含めると、最低三日くらいかな」
「なら問題ない。作戦開始は十日後だからね」
「十日後か……その間に実験もできるか? 魔法は完成させたけど、実戦になって上手く起動できませんでしたでは、お話にならないからな」
「うん、そこは大丈夫。ならディアスの役割も決まりね」
「……前と一緒で、とことん俺を使い倒す気だな」
こちらのコメントにヘレンはニヤリと笑い、
「だって便利だからね」
「俺は便利屋扱いか」
「まあまあ、報酬は上乗せするからさ」
「正直、色々仕事をしたせいで旅をするくらいじゃ使い切れない額が既にあるんだけど」
「なら物納がいい?」
「……例えば?」
「王都の一等地にある屋敷とか」
「それをあげる、とか言われた時点で肩が凝りそうだからやめてくれ」
これ見よがしにため息を吐くと、ヘレンだけではなく部屋の中にいる面々全員が笑い始めた。
「ま、報酬は……何か欲しいものがあったら言うよ」
「了解。可能な限り応えるよ」
まあ、あんまり無茶なものは頼まないようにしよう……そんなことを考えつつ、俺は話を進めることにしたのだった。




