何かを得る
夕食の後、俺達は速やかに就寝し、翌日――日の出と共に行動を開始する。まだ町が静かな中で城門を抜け、俺達はヘレンに指定された目的地へと向かう。
「ヘレンさんとは会えるのかしら?」
ミリアが歩きながら呟いた。独り言に近かったが、俺はなんとなく返答をする。
「どうだろうな。大臣との戦いに備えて動き回っているのなら、作戦の指示は部下にやらせる可能性もあるな」
「……あと『六大英傑』は集まるのかしら?」
「そこもわからない。それに、一人二人ならともかく、英傑が集結したという情報はさすがに秘匿されていてもどこからか漏れてくるだろう。大々的な作戦により魔族を一網打尽にする、としてもさすがに全員集結はやり過ぎだろ」
「目立つということね……だとすれば、ヘレンさんを除けば一人か二人?」
「クラウスにはおそらく事情をまだ話していないだろうからナシとして、王都を拠点に置いているクラリスやシュウラ、それにギルド本部で仕事をするエーナは出てこないんじゃないかな。可能性として考えられるのは、ニックだな」
近くにいたから呼ばれた、という体裁を取り繕うとしたら、俺とニックは一応説明はつく……のだが、さすがに俺達は色々な事件に関わりすぎているので、ギリュア大臣も反応するのではと不安になるけど。
「ま、俺達のことを公にするかどうかもヘレン次第だな。彼女の判断に任せよう」
「そうね……ディアス、ここから騒動が解決すると思う?」
「反魔王同盟に所属する魔族をどれだけ倒せるか、だな。リーダー格まで滅ぼすことができたなら、今後活動するにしても少なくとも魔界へ一時撤退はするだろう……そして聖王国は、次に備え対策はしていくはず」
俺はそう語ると肩をすくめた。
「魔王を倒し、魔界がおとなしくなって聖王国……ひいては人間界が平和になった、とかなら騎士団を含め規模の縮小があってもおかしくなかったが、魔王を倒しても魔族は活動しているという事実から、今後も警戒を高め戦力を積み増す可能性さえ出てきた」
「聖王国としては良いこと、なのかしら?」
「正直微妙だな。そもそも、魔王が侵攻する前だって魔族は人間界に来ているが、騎士団の規模を減らすべきだろう、軍事費を減らせと主張する人間は多かったくらいだ。けれど魔王が攻撃をしてきたことでそういう声は取り沙汰されなくなり、むしろ軍拡に舵を切る形になりそうな雰囲気……まあ軍事費、研究開発費を増やすというのはそれだけ他の場所を削減するという意味もあるし、良し悪しとしては判断が難しいな」
「魔王が倒れて以降、魔族がおとなしくしていれば、こんなことにはならなかったのよね」
「でも反魔王同盟は動き出した。それがどういう理由にせよ……世間からすれば、魔王を倒した復讐だと考えている人は多いだろう。俺も真実などを知らなければ同じように思っていたはずだ」
「けれど実際は……」
「魔王との戦いから繋がっている。そもそも、魔王侵攻から始まった戦いは、続いているんだ」
後に歴史を編纂するとしたら、魔王戦争とでも言うべきものだろうか……魔王を倒したが、その魔王を巡る戦いが人間界で繰り広げられている。今はどうにか被害の拡大を防いではいるけれど、今以上に反魔王同盟の動きが活発になったら話がどう転ぶかわからない。
「今回の戦いで、ヘレンは勝負を決めるつもりだろう……反魔王同盟が大々的に動いているということは、王都襲撃以上の出来事が控えている可能性もあるわけで。敵が準備を整え行動に移す前にこちらが仕掛け……勝利する。そういう目論見だ」
言うと共に、俺は空を仰いだ。
「それで一連の戦いが終わり……ギリュア大臣もその流れで捕まえることができれば、最高だな」
ここはヘレン次第とも言える……ただ、彼女は性急に勝負を決めようとしている。大丈夫なのかと言いたくなるが、俺が進言したからといって止まるような人間ではないし、彼女が疲労で倒れる前に決着をつけるしかない。
「ねえねえ」
と、今度はアルザから声が。
「この戦いに勝って、魔王の真実を知って……それからディアスはどうするの?」
「うーん……自分探しという目標はあるし、それのために旅は続ける気でいるが……なんとなく、どんな形であれ答えを得られるような気がするんだよな」
「それは、どうして?」
「戦士団を脱退してから、まあ色々あった。主に騒動に関わっている時間の方が長かったように思えるけど、それでも色々な出会いもあったからな」
そう言いつつ、英傑メンバーと頻繁に顔を合わせていたのを思い出し、苦笑する。
「この戦いがヘレンの目論見通り終われば、魔王との戦いから続いた騒動に終止符が打たれる。その時になったら……たぶん、俺自身何かしら答えが浮かんできそうな気がするんだ。自分探しの結論はこうだと断定できるものなのかはわからないけど……何かを得るのは間違いない。その時になったら、ミリアやアルザにも伝えることにするよ――」




