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最強のおっさん魔術師、自分探しの旅をする  作者: 陽山純樹
第八章

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魔族の幸運

 俺達は一度図書館を出た。カフェにでも入って話をしようということになったのだが、その道中で俺は魔族トールへ尋ねる。


「死にかけ、というのは大丈夫なのか?」

「魔力の供給はなんとかできている。日々の魔力増減はプラマイゼロだ。激しい運動なんかをするとまずいことになるが、日常生活を送る場合、無茶な運動なんてものはやらないだろ?」


 ずいぶんと軽い口調で話しているけど……当事者が問題ないと言うのなら頷くしかないか。


「ま、やるべきことをやり終えたらひっそりと消えるつもりではいたんだが」

「……俺達に情報を託したら消えるとか、正直寝覚めが悪いんだが」

「まあまあ、正直なところ俺はとっくの昔に消えるべき魔族だったんだ。今更自分が消えることに対し未練なんてものはないから、そう気にしないでくれよ」

「そもそも、情報を受け取るかどうかもまだ決めてないんだけどな」


 俺の言葉にトールは「そんなあ」とこぼす。悲壮感がゼロではあるので軽いやりとりになっているが、実際のところ重い話ではある。

 やがて俺達は一軒の店へ。雑談混じりに注文を行い、それからトールは俺達へ問い掛けた。


「……それじゃあ、本題に入るとするか。どこから話す?」


 それに対し、応えたのはミリア。


「あなたが人間界に入った経緯から」

「俺の生い立ちから?」

「ええ、そうね。一つ確認だけれど、トールというのも偽名よね?」

「そうだな。俺の名は……と、その前に二人の名を聞いておくか」


 ――まず、俺から名乗る。結果、トールは「おいおい」と声を発し、


「まさかの英傑さんか。しかも魔族と一緒にいるとは……驚きだ」

「俺は英傑の枠内ではないんだけど」

「いやいや、七人目の英傑なんて言われてるだろ」


 戦士の名前はリサーチ済みらしい。世情についてはちゃんと調べている……というより、


「魔界に関することは可能な限り調べていた、ってところか」

「正解だ。俺のことを追い掛けてくる輩が現れるとは思っていないが、それでも念のためだな」


 ――そして、今度はミリアが自己紹介を行う。そこでラシュオン、という姓名を聞いた瞬間、彼の目の色が変わった。


「マジかよ……なんだってラシュオン家の者がここに?」

「色々と理由があって……私のことまで知っているということは、あなたも結構な家の出身者のようね」


 ……彼は自分の名を明かすことを少し躊躇った様子だった。それはもしや、本名を名乗ればミリアも知っている、ということか。

 ただここでちゃんと名を告げなければ話は進まない。よって彼は、


「……俺の名はトールレッド=サディーアだ。ああ、名は正直捨てているつもりだから、トールと呼んでくれ」

「……サディーア……!?」


 そしてミリアは驚いた。よって俺は、


「ミリア、説明を頼む」

「え、ええ……端的に言えば、二十年ほどまえに滅亡した魔界の家柄ね」

「二十年前……あんたが最後の当主、ってことか?」

「そういう解釈でいい」

「で、色々あって人間界にやってきた」

「詳細は省くが、政争に負けて没落したんだよ。俺に家を維持するだけの力はなく、やむを得ず人間界に逃れてきた……追討する同胞から逃れ、死にかけていたところを学者さんに拾われ、今日に至る」


 そこまで語るとトールは自身の胸に手を当てた。


「魔界から逃げる途中で、胸に深い傷を負った。結果として魔力の器が破壊され、魔族としての能力をほぼ失った。ま、それでも一応魔族ということで多少魔法は扱えたから、学者さんの護衛くらいはできたんだが……今はもう魔法も使えなくなっているな」

「戦いの後遺症か……」

「そんなところ。で、ミリアさんは俺のことを直接知らないまでも、どういう素性なのかはわかるだろ」


 ミリアは小さく頷いた。そして、


「ディアス、サディーア家は魔王城に勤めていた家柄なのよ」

「ということは、魔王に近しい一族だったのか」

「立場的には、小間使い以外の何者でもなかったぞ。執政に携わっていたわけではないし、権力なんてものはなかった……が、そんな身分でも魔王の居城にいるという事実を気に食わない輩がいて、命を狙われたわけだ」

「結果として家は滅び、トールさんだけが残された」

「そんな感じだな……で、学者さんと出会った」


 トールはそこまで語ると自身の胸に手を当てた。


「小間使いという身分だったが、俺は魔王と直に話をしたこともある。他ならぬ魔王を討伐した君はどう思ったかわからないが、俺にとって魔王はそれなりに話せる存在だった」

「……俺は戦場で魔王と直接対峙した。あの迫力で話し掛けられたら、尻込みしてしまいそうだな」

「常日頃魔王と顔を合わせていたが故の慣れだな。ただ正直、実のある話は何一つなかったよ。内容は信じられないかもしれないが世間話だ……それで」


 トールはここで表情を変える。それは記憶の中から魔王という存在を引きずり出しているようだ。


「学者さんは俺の経験に興味を持ち、研究を手伝ってくれないかと誘ってきた。そして俺は……魔王と話をしていて以前から違和感を抱いていて、そのことについて調べようと思っていた。だから俺は彼の提案を喜んで受け入れた……俺にとっても学者さんと出会いは幸運だったんだ」


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