研究機関
その町は魔法都市と呼ばれ、多数存在する研究機関と学園が中心となっている。そして外観は他の町と比べても特徴的だ。
「あれは……」
レインダールの姿が見えた時、ミリアは呟いた。彼女の視線の先に、城壁に囲まれた町と、いくつもの塔が見えていた。
「あの塔について説明した方がいいな」
俺は彼女と同じ方角へ目を向けながら、話す。
「あの塔こそ、研究機関……それぞれが独立した研究機関だ。なぜ塔の形状なのか――と、言われると町の規模を維持するため、横に広げるんじゃなくて縦に建物を伸ばしたんだ」
「……規模を維持する?」
聞き返したミリアに俺は頷く。その疑問は想定通りだ。
「レインダールは大陸中央部に位置しているんだが、最初国がここに研究機関を建てた。その理由は、平地でも霊脈を有効活用できる土地であったためだ」
「霊脈……なるほど。研究をする以上は、何かしら魔力を外部から持ってきた方が効率良く進められる、と」
「そうだ。なおかつ霊脈は地底の奥深くかつ、非常に流れが大きい……聖王国の領土内において、もっとも膨大な流れを持つ霊脈だ。それこそ、人が井戸の水を汲むように吸い上げても、決して枯渇することのないほどのものだ」
「研究機関である以上は、未来永劫活躍してもらわなければならない……だからこそ、そういう場所を選んだと」
「正解。ただ、地底奥深くにあるため、吸い上げられる範囲には限りがある……城壁で囲っているだろ? あの外に出ると、霊脈を吸い上げることができなくなる」
と、俺はここで肩をすくめる。
「最初、今見える町より規模はもっと小さかったけど、技術革新によって、少しずつ魔力を吸い上げる土地の範囲は増えていった。そして現状、今ある城壁の内側では、魔力を吸い出すことができる」
「なるほど……ただそれ、単純に吸い上げる範囲を示しているだけではなさそうね」
「そうだな。安易に魔力を吸い上げることがないよう、城壁内ではしっかりと警備態勢が敷かれている……つまり霊脈を使わせないよう、内側を守る意味がある」
俺はそこまで言うと、小さく息をついた。
「あの町は研究者と学生が大通りを行き交うずいぶんと変わった場所なんだが、それ以上に物々しさがある。どこを歩いても警備する人間の姿がある。怪しまれると色々と干渉してくるだろうから注意してくれ。特にアルザ」
「はーい」
「ただ大通りについては問題ない。一応、観光客もいるからな」
「それでディアス」
と、ミリアが俺の名を呼びながら問い掛ける。
「私達はまずどこへ?」
「図書館だな。聖王国内最大規模の図書館がある……そこは観光客がやってくることもあって、間近で見たら驚くだろう」
「そこでまずは調べるの?」
「各研究機関は日々しのぎを削り合い、新技術とか新たな発見とかはトップシークレットで基本、外に漏れ出ることはない……が、公にされた情報とか、あるいは発表された論文とかは全て図書館に集約される。研究機関同士はいがみ合っているが、だからといって秘密ばかりでは研究は進まなくなる。よってどこかのラインで情報共有は必要ということで、図書館に論文なんかが集まるんだ」
「私達の求める情報が、そこにあるのかしら」
「例えば魔族に関する情報……魔族の特性とか、魔力に関する情報なんかは秘密にしていてもおかしくないが、魔界の歴史なんてものについては、秘匿する必要もないだろうしあると思う」
「で、図書館に埋もれていると」
「反魔王同盟、魔王の真実……情報を持っている俺達からすれば、貴重な情報だとしても、そういった前提の知識がなければ眉唾レベルの情報として、ぞんざいに扱われている可能性はありそうだしなあ」
「そうね……でも、大変そうね」
「多種多様な研究機関が作成した論文や資料だからな。長期戦は覚悟しないといけないかもしれない……もしヘレンからの呼び出しがあれば、すぐに向かうぞ」
ミリアは頷く――ちなみにヘレンにはレインダールへ行くことは連絡手段を通して伝えてある。よって作戦が始まる場合は速やかにこの町へ伝令が来るだろう。
「さて」
俺は一度息をついた後、改めて城壁と町を見回した。
「まずは宿を探す……けど、それなりに宿泊施設も多いし、問題なく見つかるはずだ」
「そういえばディアス、あなたはこの町に来たことが?」
「魔法使いだからな。研究という名目で訪れたことは幾度かある……国からの協力要請で、研究を手伝えってさ。ただ、正直俺は役に立てたと言いがたいけどな」
純粋な戦闘技能と研究は違う……まあ、戦闘技術について解析するというのも一つの研究であり、騎士団や宮廷魔術師の教育に使うために俺は呼ばれたわけだが、貢献したかと言うと微妙なところである。
「ま、取り立てて語るような話はないさ。それじゃあさっさと町へ入ろう。今日のところは宿探しで、明日から活動開始といこう――」




