奇妙な町
反魔王同盟、ギリュア大臣の謀略……と、色々と騒動が巻き起こる中、俺達は行き先を決めて旅を進める。目的としては魔王がどういう存在なのか調べること。そこに隠された真実があり、今回発生している騒動と何かしら関連があるのかもしれない。
なおかつ、オージュと再会した際に関わった騒動で顔を合わせた魔物のヌシは言った。魔王は要であり道具だと。色々と推測できるだけの情報は揃いつつあり、俺の頭の中でもどういうことなのか、理屈をつけて考察しているのだが……まだまだ想像の域を出ていない。
保有している情報を統合し、一つの事実として確立させるには、まだまだ足りないものが多い……ということで、俺達は情報を求め街道を進む。
「ねえディアス」
その道中でミリアが俺へ声を掛けてくる。
「人間……ひいては聖王国がどのくらい魔族や魔界について情報を保有しているのかは……」
「俺も専門家じゃないからわからない。そもそも、多くの人にとって魔王がどういう存在なのかというのは興味もないからな。魔王はあくまで人間を滅ぼすために侵攻する凶悪な存在で、実際に聖王国へ攻撃したことからもそれは事実だろう。で、そこに政治的な裏があったとしても、調べようがないし噂話で花を咲かせるくらいしかやれることはないだろ」
「魔界について確度の高い情報があるかもしれない、と?」
「当然、魔界に言った方が詳しい情報があるはず……だけど反魔王同盟という存在がいることから、魔界にいる魔族であってもわからないことがある様子。なら、そうした情報が魔界から逃れた魔族の手によって、人間界にもたらされているかもしれない」
と、ここで俺は笑う。
「とはいえ、だ。そうした情報は真偽不明なものとして隅へ追いやられているだろう。反魔王同盟なんて存在がいなければ、魔物のヌシに情報をもらっていなければ、魔界に関する情報としては不適当、という烙印を押されている情報の可能性が高い」
「そうか、そういった情報の中に真実が……」
「あくまで眠っている可能性、くらいだけどね……でも俺達は旅を通して今までにはない情報を得た。それを持っていれば、読み解ける情報だってあるかもしれない」
俺の言葉にミリアは納得した様子だった。で、俺は次にアルザへ顔を向け、
「今回は、アルザの出番はなさそうだし、退屈かもしれないけど」
「町をウロウロしているから問題ないよ」
アルザは言う……書物を読み漁るとかどう考えてもアルザには合わないし、今回は自由行動ということになりそうだな。
さて、目的地についてだが……言うなれば学者の町、といった表現が似合うだろうか。その名はレインダール。魔法に関する数々の研究機関が集約する場所であり、そこに加えて魔法の学園も乱立している。
乱立、という表現はどうなのかと思うのだが真実その通りである……というのも、最初は国が公的な機関として設立した研究機関と、教育施設があっただけなのだが、そこからいくつも民間系の研究機関が立ち上がった……なぜかというと聖王国内には数々のダンジョンが存在し、魔族が所持していた武具など、研究すべき物が非常に多いから。
国の研究機関だけでそれを調べきることは難しく、結果的に国から多少支援を受けつつも独自の研究機関が生まれるに至り、研究員や魔法使いを確保するために教育機関が設立した。その結果、多種多様な研究機関と学園が存在する奇妙な町ができあがった。
「なんというか、無茶苦茶ね」
レインダールが生まれた経緯を説明すると、ミリアはそんな感想を漏らした。
「それは研究対象が多数あったからこそ成り立つ話よね?」
「そうだな。実際、ダンジョンに潜って魔族由来の武具などを回収する……それ以外に、ダンジョンの構造とか、あるいは魔力についてとか、調べるものはいくらでもある。で、そうした技術によって人間の魔法は強くなり、発展を遂げてきた……魔界と隣接しているからこそ、研究材料には事欠かなかった」
「本来、魔族や魔物は少ない方が人間にとってはいいはずだけれど……」
「皮肉な話ではあるな。それに魔界としては、俺達に力をつけさせてしまう材料にもなっていたわけで……実際、俺達は魔王を倒してしまったからな」
「そうね……ただそれは、何者かがそうさせたという形のようだけど」
「そこに関する謎も、調べることで解明されるのかな……ま、ともかく聖王国――ひいては人類が持つ魔族、魔界の情報について、一番詳しく調べられるのはレインダールだ。来たるべき決戦に備え、俺達も情報収集しておかないと」
そんな風に会話をしつつ、俺達は旅を続ける。距離はそれなりにあったのだが、道中は平和そのもの。俺達は魔物討伐の仕事一つ受けることなく……予定よりも早く、レインダールへと辿り着くこととなった。




