我慢の時
今後の方針が決定したところで、話し合いは解散となった。騎士を含めこの砦にいる人間は他に魔族が現れないか索敵を行っているらしく、俺達もひとまず様子見、ということで砦にしばし滞在することに。
とはいえ、魔族へ攻撃を仕掛ける際に他に敵がいなかったこともあるし、わざわざ滅びた魔族の所へ救援に来るとは思えない……結果的にやはり魔族は現れず、魔物さえも接近してくることはなかった。
よって、オージュと再会してからの騒動については終了した。ずいぶんと長い騒動だったわけだが、様々な情報を得ることができた。終わってみれば魔物のヌシなんかとも話をする機会に遭遇したし、正直驚くことの連続であった。
「しかし、オージュと顔を合わせただけでこんなことになるとはなあ」
朝、俺は支度を済ませながらそう呟く――魔族が来ることもないため、俺とミリア、そしてアルザは砦を離れることになった。ヘレンからの作戦指示はまだで、完全に準備が終わったら改めて連絡が来るそうだ。
どの程度時間が掛かるのか、という疑問についてはヘレンも無回答だった。実際わからない、というのが正直なところであり、ギリュア大臣の動向を含め、魔族が入り込んでいる以上はまだまだ予断を許さない……彼女にとっては大変な仕事が続くだろう。
ただ、彼女ならやりきるだろう……砦の外へ出ると既にミリアとアルザは待っていた。そして、
「揃ったね」
後方から声。振り返れば見送りに来たヘレンの姿が。
「ま、いよいよとなったら連絡する。それまでは旅を楽しんでいて」
「……そう遠くないんだろ? 別にどこかに居座って待つのも手だが」
「そんなことしたら怪しまれるでしょ。今はとにかく、こっちが情報を持っていることを悟らせないようにするのが優先」
ギリュア大臣に何かしらの形で情報が渡ってしまったらこれまでの作戦が泡と消える。そこをヘレンは何よりも警戒しているらしい。
「あと私のことは心配しなくてもいい。体力は十分あるし……何より、やる気に満ちているからね」
「仮に俺が何を言っても止まるつもりはないだろ」
そんな言葉にヘレンは「まあね」と答えつつ、
「というわけで、改めてさようなら。ま、近いうちに再会するだろうけど」
「……トラブルがないことを祈っているよ」
そして俺達は砦を去る。街道を進みつつ、俺はミリア達へ言及する。
「思わぬ形で魔族討伐なんかをやったわけで、本来の目的は完全に見失ったな」
「これからどうするの? ディアス」
問い掛けてきたのはミリア。俺は頭をかきつつ、
「元々の目的地へ……というのも手ではあるけど、なんだかそういう気分にはなれないな」
「じゃあ、どうする?」
「かといって、俺達だけで次の戦いに向け動き回るのはまずいけど、観光しようかと言われると……」
「なんだか落ち着かないね」
アルザが述べる――次に起きるであろう作戦は聖王国の根幹を揺るがし、魔族と事を構える大規模な戦いに発展するだろう……それがわかっていて、自由気ままに旅をしよう、というのもなんだか微妙な気持ちになる。
「アルザ、さっきも言ったけど俺達だけで動くのもまずいわけで……今は我慢の時かな」
「むー」
「二人はどこか行きたい所は……その顔だと特になさそうだな。となると……」
考えながら、俺は一つ思い当たることがあった。
「……なあ、ミリア。魔物のヌシは魔界から逃れた魔族の存在について言及していたよな」
「そうね。今思えば、ディアスの友人であったアヴィンに似ていたのかも」
「人間界にやってきた……俺達にやれることがあるとしたら、アヴィンについて調べることだな。反魔王同盟については情報もないし、ギリュア大臣に関することを調べるとかいくらなんでもまずいからな」
「けれど、人間界で情報を得ることができるかしら?」
「反魔王同盟は何か知っているかもしれない……けど、さすがにそこから聞き出すのは無理だ。俺としても人間界を脅かす相手と交渉するのは嫌だし」
「なら、反魔王同盟と関わりがなく、人間界にいる魔族……」
「そんなのがどのくらいいるかって話だ。それに、アヴィンと同じように逃れてきたなんてレアケースだろうから……とはいえ、魔族から直接尋ねる以外にも手はある」
俺は喋りながら一つの候補を頭に思い浮かべた。
「現段階で魔界に関する情報……それを人間がどの程度保有しているのか、一度確かめてみたいな」
「情報が集まっている場所……ギルド本部とかではないわね?」
「ああ。魔族の研究……特に歴史などを研究している所じゃないと、情報を得るのは難しいだろう」
「私としても、魔物のヌシが語っていたこと……魔王は要であり道具。そこについては気になっているし、賛同するわ」
正直、人間界で情報が得られる可能性は低い。けれど、やれるだけやってみよう……そして俺達は次なる目的地を、決めたのだった――




