決定的な情報
騎士達が魔族の猛攻をしのいでいる間に、俺とアルザは横手に回った。完全に挟み込む形であり……とはいえ、動いているのは俺とアルザの二人だけ。人数を使って押し寄せてきたのであれば魔族としても注力したかもしれないが、
「馬鹿にするなよ……!」
リーダー格の魔族は吠え、腕を振った。直後、俺とアルザの真正面に魔物が生まれる。
どうやら魔物を瞬時に生成できる能力を持っているらしい……のだが、俺はここで何をすべきか察した。それはアルザも理解したようで、魔物や魔族越しに視線を俺へ向けた。
位置としては、俺とアルザがリーダー格の魔族を狙い、それを魔物が阻んでいる状態。奇襲を仕掛けるつもりだった魔族は既に滅んでおり、リーダー格以外の魔族は全て強化魔法によって応戦している騎士達と向かい合い戦っている。
リーダー格の魔族は、魔物以外に自分の身を守れる存在はいない。そして目前にいる魔物は骸骨騎士であり、質はどうやら高いようだが……俺とアルザならば問題なく瞬殺できるくらいの能力。
であれば、選択肢は一つ――俺とアルザはまったく同じタイミングで魔物へ攻撃を仕掛けた。魔族はそれを見ていたが、騎士を注視し俺達を視界から外した。
それを狙い、俺とアルザは攻撃を仕掛けた。魔物は剣をかざしカウンターを狙ったようだが……それをはね除け、俺達は魔物を瞬殺する。
「――何!?」
それと共に驚愕する魔族。そして左右から狙われることに気付いた魔族は、顔を引きつらせた。
……この時点で、俺はある決定的な情報を得ることに成功していた。そもそも魔族は俺とアルザに対しそう警戒していなかった。俺は強化魔法を使い騎士を援護しているし、アルザは退魔の力を保有している。魔族にとって両方とも厄介な能力であるのは間違いないはずなのだが、それでも騎士を注意していた。
その原因は、間違いなく先ほど生み出した魔物の特性にあった。質については高かったし、何より……ギルド本部を襲撃した魔物と同質の魔力を感知することができた。
つまり、目の前にいる魔族は反魔王同盟絡みの魔族であることは間違いない……この技術があるからこそ、魔物でも食い止めることができると考えていた。たぶんだが、単独で迫られるより徒党を組んで攻撃される方が厄介だと考えたのだろう。
しかし戦闘経験のある俺とアルザは、魔物を瞬殺できる術を用意できた。それによって、勝負は決まった。
「くっ!」
魔族は咄嗟に防御しようとしたが全てが遅かった。まず俺が雷撃を放ち、その動きを縫い止める。
次いで、アルザの剣が――入った。魔族は悲鳴を上げながら回避に転じようとしたが、追撃の剣戟が魔族の体を捉え、あっさりと消滅に至った。
その直後、騎士と交戦していた魔族に動揺が走る。明らかに動きが鈍くなり、中には騎士への攻撃を止める者さえいた。
結果、完全に形勢を傾かせた。騎士達は好機とみてすかさず攻勢に出る。リーダー格の魔族が滅んだこともあり、一気にいけると判断したのだろう。後方で指揮する騎士が号令を掛けて、魔族へ向け雪崩打つように攻撃を行う。
そこに、戦士団の面々も加わった。途端に魔族は対応を余儀なくされ、防戦に徹する……が、さすがに人数差もある上に動揺している状況下であったため、多数の攻撃が突き刺さった。
それが決定打となって、魔族は相次いで消滅……全ての気配が消えた時、騎士達は息をつき俺も安堵の息を漏らした。
「怪我人はいるけど、どうにか犠牲者は出ずに済んだな」
俺は騎士や戦士を見回す。騎士の中には腕などを負傷している人はいたが、重傷者はゼロ。完璧に近い結果と言えるだろう。
楽勝……と、傍から見れば思うかもしれないが、一歩間違えれば犠牲者が出てもおかしくなかった。俺達は伏兵の存在に気づけたことで相手の策を潰し、なおかつリーダー格の魔族が俺とアルザの能力を見誤ったからこそ、上手く立ち回れた。中級、下級クラスの魔族であるのは間違いないが、油断すれば魔王へ挑んだ俺であってもどうなるかわからない相手。それが魔族であり……倒せて良かった。
「さて、後は洞窟内の調査だが……」
辺りを見ても、資料なんて物は存在していなさそうである。ヘレンはギリュア大臣に繋がる情報を欲していたが、それは期待薄といったところかな。
「念のため、隠し通路とか調べてみるか……とはいえ天然の洞窟っぽいし、ダンジョン化しているわけでもないからなさそうだけど」
「そうだね」
アルザが同意する。彼女が言うのであれば、何もなさそうだな。
ただ一つ、魔族が保有していた技術……あれによって反魔王同盟絡みであることは確定だ。どこまで人間界に入り込んでいるのか……それについては早急な調査が必要だろうな。
それに、この魔族は拠点やダンジョンを作ろうとしていたようだし……勝利はしたが、気を緩める暇はなさそうだ、と俺は感じた。




