伏兵との攻防
騎士と魔族が交戦を開始する……その直前のタイミングで俺とアルザは動き出した。途端、リーダー格の魔族の視線が明らかに俺やアルザへと向けられた。
こちらの動きを見て何をするつもりなのか直感したらしい。とはいえ、相手としては戦法を変えることもできない。左右に配置した魔族を伏せたままにするなんてことは無意味だし、このタイミングで動かさなければ騎士達に対策を立てられるだろう。
だからこそ、左右にいた魔族は動いた。それに対し俺とアルザが魔族達の攻撃を阻むように、立ち塞がった。
俺の目の前にいる魔族は、痩身ではあるがずいぶんと目つきが鋭い戦士風の魔族。剣を握ってはいるが、そこから発露する魔力は明らかに異質であったため、剣も魔族の一部ということでよさそうだ。
「邪魔だ!」
そして魔族は叫びながら俺へ仕掛ける。魔法使いの見た目をしているため、接近すれば問題なく突破できると考えたのだろう。
俺は杖をかざし魔族を迎え撃つ。相手の戦法は剣を振りかぶり一閃することによるごり押し。俺の能力をどこまで把握しているのか不明だが、俺の素性を知った上での行動ではないだろう。
そもそもリーダー格の魔族が俺のことを知らないレベルだからな……向こうが何かしら切り札を使うより前に短期決戦で仕留めた方がいいだろうと俺は判断し、杖に魔力を集める。
決戦術式を使う必要はない。この相手なら、ある程度の強化で押し切れる――!
「死ねえ!」
声と共に振り下ろされた刃。斬撃速度はさすが魔族、といったところだが俺にとっては余裕で避けられるレベルだった。
すかさず杖で受ける。強化魔法によって剣戟は杖と激突し、動かなくなる。
「ほう?」
興味深そうに呟く魔族――まさか耐えられるとは、とちょっと驚いている。
俺はすかさず力を入れて剣を押し返す。それで仕切り直しとするつもりだったか魔族は一歩後退し、
「どうやら強引に突破するのは難しいようだ。ならば――」
最後まで言わせなかった。刹那、杖先から放たれたのは雷撃。それは魔族が反応するよりも先に直撃し、
「がっ――」
一瞬、体が硬直する。その隙を見逃さず俺は追撃の杖を、魔族へ一閃した。
魔力が収束されたその一撃は、魔族の体に直撃し――振り抜いた直後、その体があっけなく砕かれた。
「な――」
魔族は驚愕しながら消滅する。俺は息をつき周囲を見回すと、右側に潜んでいた魔族はアルザが倒しているのがわかった。まあ、退魔の力をモロに受けて魔族が無事に済むはずがないので当然の結果だ。
一方で騎士達は……魔族と交戦し、膠着状態。ただリーダー格の魔族は明らかに苛立っている。騎士へ攻撃を仕掛け優位に立ちつつ駄目押しで伏兵が攻撃、という構図を見込んでいたのだろうと思われる。しかし伏兵はあっさりと見つかり瞬殺され、騎士も猛攻をしのいでいる状況。
ここで魔族は選択に迫られた。逃げるか攻撃し続けるか……魔族としてのプライドがある以上、人間に背を向ける可能性は低いが、自身の命が脅かされれば話は別だろう。
俺は周囲を見回し、洞窟に抜け道などがないか探してみるが……少なくとも俺達がこの空間に入った入口の他に、風が通り抜ける道や魔力によって覆われた道がある、というわけではなさそうだ。
ならば。俺達を強引に突破して逃げるしかない……周囲にいる魔族達が犠牲になるのは確実であり、リーダー格の魔族はどう判断するのか。
騎士達は魔族の攻撃に対し守勢に回りながらも反撃を窺う情勢。ここで、魔族の目が俺へ向けられた。おそらく騎士へこうした強化を施した存在――だからこそ、こちらを優先すべきかどうか。
俺はそんな視線を無視しつつ杖を構える。魔法で援護をするにしても混戦に近い状況なのでやり方は限られる。強化魔法を付与し直すのもまだまだ必要がない。ただ、騎士達の戦いに割って入るのではなく、側方から回り込んで仕掛ける方がいいだろうか?
色々と考える間に、魔族が先に決断する。次の瞬間、魔族達の攻撃が苛烈になる。どうやらこのまま押し切ろうと考えたらしい。
しかし騎士は動かない。俺の強化魔法がしっかりと効いており、魔族相手にも十分通用している。この調子なら、逆に反撃することも可能だが……騎士達は無理をせず、確実に仕留められる機会を狙っている。
戦士についてはまだ出番なし。援護要員ということでいつでも戦えるよう態勢を維持しているのみ。もし騎士達が攻勢に転じたら、彼らも率先して攻撃を仕掛けるかもしれない。
魔族達の攻撃はさらに苛烈となり、だがそれでも騎士を突破できることは叶わず。このまま戦い続ければどうなるのか……俺は杖に魔力を収束させつつ魔族へ接近する。さらにアルザもまた動き……決着は、そう遠くない場所にあるようだった。




