技術の差
強化魔法完成から次の日、俺達は魔族が拠点としている洞窟へ向けて移動を始めた。さらに、帯同する戦士団もやってくる。俺やアルザの姿を見て驚かれたのだが……頼もしいとばかりにずいぶんと好意的だった。
「正直、複数魔族がいるとわかった時点で大丈夫かと不安もあった」
戦士団のリーダーが言う……気の良い茶髪の男性で、俺達は騎士達の後についていきつつ進んでいく。
「騎士団の規模を考えると討伐は可能だろうと踏んでいたが、魔族の動き次第では相当な犠牲者が出ると考えていた」
「けど、俺達がいれば……ということか?」
「英傑かつ王族のヘレンさんがいるため、頼もしいとは感じたがそれでも徒党を組んだ魔族は怖いからな。特にディアスさんの強化魔法には期待している」
――会話の間にも戦士団の魔力についてはおおよそ見極めた。こちらは相応の実力があるみたいだし、霊脈を介する魔法であっても騎士と比べ簡素なものでいいだろう。あんまり強力にすると、生来の能力の邪魔になりかねないし。
俺は戦士団のリーダーなんかと雑談に興じつつ……やがて、目の前に森が現れた。目的地だ、と考えた矢先、俺を呼ぶ声が。
「ディアスー」
ヘレンの声だ。いよいよ出番だなと思いつつ俺は彼女へ近寄る。
森の入口付近で彼女は騎士に囲まれ立っていた。既に事情は説明しているため、俺のことを見ても騎士はさしたる反応はない。
「それじゃあ、早速始めてもらおうかな」
「霊脈に干渉する手はずは?」
「今作業してるよ」
見れば、横手で複数の魔法使いが地面に杭を打っている。
「霊脈そのものから少しだけ距離があるけど、道具を使って魔力を吸い出す」
「魔族が霊脈を使っているわけじゃないのか?」
「そこは確認した。結論から言えばここにある霊脈は結構地底深くにあって、簡単には魔力を吸い出せないようになっている。でも、こちらには魔力を出せる術がある」
「技術の差だな……ただ魔族達はこちらの行為に気付くだろうな」
「私達がいることも当然気付いているはず。でも現時点で逃げてはいない」
索敵は常にしているようだ。
「英傑がいようとも所詮は一人、みたいに思っているのかも」
「ヘレンのことは知っていたのか?」
「私は直接今回の魔族と顔を合わせたわけじゃないけど、私が攻撃を仕掛ける時に限って魔物が逃げ腰になっていたから」
なるほど、警戒しているということはリサーチ済みか。
「でもディアスのことは知らないみたい」
「……俺がいたら今から何をするか気付くはず。で、強化魔法を使われる前に攻撃する、ってことか」
「私が一番懸念していたのはそこだし、強化魔法を使えないプランでの戦略も考えていたけど、必要なかったようね」
彼女の頭の中にはいくつもの戦術がシミュレートしていたのだろう。で、今回の状況は彼女にとって悪くはないようだ。
少しすると準備ができた。俺は魔法使いから簡単な説明を受けた後、杖をかざし魔法を発動させる。
直後、俺の魔力に反応した杭から魔力が吸い上げられる……これこそ霊脈の魔力。うん、この量であれば問題なく魔法は発動できるし、この場にいる全員に付与できるだろう。
「ディアス、確認だけれど」
杖を振り騎士達へ魔法を付与する直前、ヘレンが声を掛けた。
「まず、強化魔法の詳細を教えて」
「全般的な能力向上と、魔力増幅。騎士達には同じ魔法を一度に付与するから、個々によって差が出るかもしれないけど……洞窟へ向かう間に感触を確かめてくれるとありがたい」
「強化魔法はどのくらいもつ?」
「付与する魔力の規模から考えると、何もしなければ半日程度。全力戦闘を行う場合は長くてその半分といったところか」
「お、ずいぶんと長い」
「予想していたよりは長かったか? ただ、何も考えずに魔法を連発しているとあっさりなくなるだろうから、そこは付与された魔力を確認しつつ立ち回ってくれ」
俺の言葉にヘレンは頷き、また周囲にいた騎士や魔法使いの幾人も彼女に倣った。
「ディアスが魔法を掛けた瞬間、作戦開始」
ヘレンが言うと、騎士達は動き出す。最前線には今回帯同した騎士の中でも精鋭が陣取り、ヘレンは後方に立って指揮をする形だ。戦士団やアルザやミリアについては後方に控えるような形をとっており、後詰めや前線がまずい状況になった場合に備えて援護要員、という立ち位置になりそうだ。
「ヘレン、森の中に魔物はいるのか?」
「うん。とはいえ数はそう多くない。付与された強化を活かせば対処はそう難しくないと思う」
「わかった……それじゃあ、いくぞ――」
俺は杭から引き出された魔力と伴い、杖を振った。途端、周囲に魔力が溢れそれがこの場にいる者達に付与される。
騎士達から声が上がる……いつも使用する強化魔法とは違う、霊脈の魔力から得られた強化。高揚感などもあるだろうし、戦意は間違いなく上がった……そして、ヘレンが号令を掛け騎士達の進撃が始まった。




