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鍛錬の結晶

 結局魔物は威嚇行動だけで、俺へ攻撃してくることはなく……やがて入口を見つけて踏み込んだ。


 少し進むと自然洞窟から一変、石造りの重厚な建物へと変化する。元々あった洞窟の規模は不明だが、明らかに内部はでかくなっているはず……魔法で空間を拡張しているわけだ。

 そして、俺は目を凝らして罠などがないか確認する……うん、物理的な仕掛けはないし、魔法による仕掛けも存在していない。なおかつ迷宮の構造は……魔法を使って簡易検索を行ってみる。


 結果から言うと、迷路型の比較的シンプルな構造だった。その道中で多数の魔物はいるみたいだが……と、早速前方に人と同様の体格を持つ悪魔を発見。外にいる魔物とは異なり、襲い掛かってくる――


「ほっ」


 それに対し俺は杖を軽く振った。その先端部分から淡い魔力が漏れ出ると、光の矢が生まれる……それは一本ではなく、合計で十本。

 光が一斉に放たれる。悪魔は回避しようとしたがそれよりも先に魔法が直撃し……オオオ、という悲鳴のような声が上がる。同時、為す術なくあっさりと滅び去った。


「うん、弱いな」


 見た目は結構すごいけど……とはいえこれはあくまで魔王と戦った俺の基準である。普通の戦士なら、相対した瞬間に回れ右して逃げているところだ。

 俺は周囲を警戒しつつ先へと進んでいく。道中でさらなる敵に遭遇するが、その全てを同じような光の矢で倒していく。敵の能力を見極め、最初十本だったものを五本程度にしてみるが、それでも悪魔は消滅する。うん、大丈夫そうだ。


 俺は迷路を探索し、魔物や悪魔を倒し続け……あっさりと一番奥へ辿り着いた。煌々とした明かりに照らされた石造りの空間は、ダンジョンの主が待ち受けているのだと確信させられるような雰囲気を発していた。


 そこにいたのは多数の魔物と悪魔。そして奥に魔族の気配を漂わせる存在が――


「あんたが、このダンジョンの主でいいのか?」


 問い掛けに相手は答えない。その姿は、一言で表すなら美麗な女性――金髪碧眼で、傍からは魔族にまったく見えない。そうした彼女は右手に剣を握りしめ、冒険者が着込む旅装姿で俺を見据えている。


「ふむ……」


 相手は警戒しきっている。ただそれは、ここまで辿り着いた俺の実力を見たためとは少し違う気がする。

 戦いの技術を学ぶ中で、俺は相手の動きなどからその心理状態なども推測できるようになっているのだが……今女性魔族が向ける眼差しは、例えるなら「なぜここにコイツがいる?」といった空気感がある。


 それが俺の勘違いかどうか……まずは問い掛けてみる。


「もしかして、人間との戦いの中で俺の顔を見たことがあるのか?」


 反応があった。険しい表情にわずかながらヒビが入った。


 うん、どうやら俺の推測通りらしい。魔王との戦いで見たのか、それとも……戦士団所属の魔法使いとして二十年、数え切れないほど魔族と戦ってきた以上、どこかで遭遇したのかもしれない。俺は記憶ないけど。


 経緯はどうあれ、彼女は魔界を脱してここにいる。理由は不明だが、このダンジョンに入り込んで拠点にして周囲に魔物を生み出し警戒。ここにこもって何かをしようとしていた……とはいえ、腑に落ちない点がある。


 入口付近にいた魔物は、基本的に襲い掛かってこなかった……ここから考えると――加えて、俺に対しての視線は魔王を倒したカタキとか、そういう雰囲気ではない。むしろどうやって逃げるか……そんな算段を立てている様子だ。


「やっぱ、事情ありか……」


 そう小さく呟いた瞬間、魔物達が一斉に向かってきた。俺はそれに対し杖をかざしつつ待つ構えをとる。

 今まで通り瞬殺しても良かったのだが、一つ確かめたいことができた。そして一番最初に接近してきた悪魔は拳を振り上げ、俺へ差し向けるのだが――思っていたよりも動きが鈍い。


 というより、俺を殺すというよりは気絶させようとしている……こちらは杖で防いで受け流す。そこへ、今度は別の悪魔が来るのだが……その狙いは頭や心臓といった急所ではなく、どうやら腹部。

 たぶんみぞおちにでも拳を食らわせて気絶させようとしているのだ。当たり所が悪ければそれでも死ぬ可能性はあるけど……俺は悪魔達の行動を見て魔族の目論見を把握。直後、杖を軽く振って魔法を生み出した。


 直後――現れたのは今までよりも太い光の矢。その数は十や二十ではきかないほどであり、奥にいた魔族が瞠目するほどだった。


「それは――」


 魔族が何事か呟こうとした矢先、俺の魔法が魔物へと炸裂した。轟音が耳を打ち、体を響かせ、視界が完全に真っ白に染まる。

 だがそれも一瞬のこと。すぐさま視界が晴れると、襲い掛かってきた悪魔や魔物は一体残らず消え失せていた。


「……俺の勝ちだな」


 宣言。それと共に魔族は、観念したように目を細め、


「――無詠唱魔法の達人、だったかしら」


 ダンジョン内に響き渡ったのは、凜とした声。まるで女王が発したような、人の背筋をただすような真っ直ぐな声音だった。


「達人、と言われるのもどうだかな」


 俺はそれに肩をすくめつつ答えた……が、無詠唱魔法――それこそ俺の得意分野である。


 魔法は技と違って詠唱や身振り手振りが本来必要になる。だが、俺はそれをほとんどやらずに魔法が使える。これは二十年という歳月による鍛錬の結晶であった。


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