色分け
話し合いを終えた後、俺はヘレンと一緒に駐屯地である砦内を見て回ることに。ちなみにミリアとアルザは部屋を用意してもらって休むことになった。
「いやあ、ディアスがいてくれて助かるよ」
と、廊下を歩いていると横を歩くヘレンが声を掛けてきた。
「戦況を詳しく聞いて、ベストな人を連れてきたな、と思ったね」
「とことん強化魔法を酷使させる気だな……ただ、さっきも言った通り準備が必要だ。現状の戦力……騎士と戦士団だけで対応するつもりなら、相当能力を上げる強化魔法が必要だ。でもそれには必要なものがある」
「具体的には?」
聞き返したヘレンに対し、俺は話し始める。
「まず、霊脈の確保だな。魔族が拠点にしている洞窟付近にありそうだし、おそらく利用はできると思うけど」
「霊脈を利用して強化?」
「そうだ。より具体的に言えば、他者に付与して満足いくだけの魔力がいる」
俺の言葉を聞いて見返すヘレン。そこで俺は、
「俺が普段騎士や戦士に使用する強化魔法は、その人が持っている魔力を一時的に増幅させる、というものだ。つまり魔力の総量が増えたわけではなく、体の奥底に眠る魔力を普段以上に引き出しやすくして強くなる……という類いのものだ」
「奥底に眠る力……」
「魔力を引き出す行為というのは、かなり熟練が必要になる。体から効率良く引き出すには技術が必要で、例え同じ量の魔力を持っている騎士がいたとしても、そこによって差が出るわけだ。俺が普段他者に使用する魔法は一時的に体の内で眠っている力を起こして、能力を向上させる……俺はあくまで魔法で体に働きかけているだけであり、だからこそ不特定多数の人に使える」
そこまで語った後、俺は「ただし」と付け加える。
「ただ英傑のように何度も一緒に戦っている人間なら、その人の魔力はある程度わかる。よって俺の魔力によって能力を向上させることができる。ヘレンが望んでいる強化は、俺の魔力を利用して強化、という形だな?」
「そうだね」
「本来ならそれは非常に困難だ。能力の解析もできていない不特定多数の人間に魔力を付与しても、上手く扱えないならまだマシで、場合によっては相性が悪くて魔力が暴走する危険性だってある」
「それを解消するために霊脈が必要?」
「いや、霊脈は多数の人に魔力を与えるためのものだ。一人二人なら自前の魔力でなんとかなるが、今回は大人数だから魔力が足らない」
「それじゃあ、相性の問題とかはどう解決を?」
「だからまず、駐屯地内を見て回る」
俺の発言を受けて、ヘレンは何が言いたいのか理解できた様子。
「もしかして、一人一人魔力を調べるの?」
「この砦にいる騎士が中心に立つわけだろ? なら、そのくらいは調べないといけないな」
「……それ、どのくらい時間掛かる?」
「んー、なんだか調べるということで一人一人聞き取りみたいなイメージをしているみたいだが、俺が魔法でおおよその質を見極めるくらいだから、そんなに時間は掛からないぞ」
「あ、なんだ。それじゃあさっさとやって」
「お前……」
脱力しそうになりつつ、俺は廊下を歩む。ここで、砦の中庭で教練をしている騎士達を発見した。
「とりあえずあの場所から行くか」
「ねえディアス。やり方はわかったけど、具体的にどうするの? 全員の情報をまとめて、強化魔法を施せるの?」
なおもヘレンから疑問がやってくる。疑うのは無理もない。
「強化魔法を他者に付与する場合、さっき知り合いならある程度魔力がわかるから支援できる、と言ったよな?」
「ええ」
「より効果的に強化を施すのであれば、その人の魔力を精密に分析するのがベストだが、正直そこまで精査する必要性はない。それなりに人を支援してきた実績から言うと、ある程度魔力を質で分別できる」
「分別……つまり色分けとかをして、適性のある強化魔法を使うってこと?」
「そうだ。魔王との戦いだって、それなりに騎士とか戦士とかとそれなりに交流して、事前にどういった強化魔法を使うのかは決めていたんだぞ。まああの戦いは知り合いも多かったし、クラウスが率いていた騎士団なんかともよく共闘していたから、そんなに手間にはならなかったけど」
「へえ、そうなの……ということは、その色を確認するために今から見て回ると」
「正解だ。同じ騎士だからクラウスが率いる騎士と同じか、と言われるとそうでもない。騎士団って団を単位として訓練方法とかも違うだろ? それによって多少なりとも魔力の質が違う。色で言うなら青色か藍色か水色くらいの違いだが……それでも強化魔法を行使する場合は、その違いが結構大きかったりする」
「なるほど、そういうことか……付与はできそう?」
「霊脈の確保さえできれば、おそらくはできる。ああ、ただヘレン。事前に通告はしておいてくれ。強化魔法を使った後、拒否とかされると魔法が上手く機能しなかったりするからさ――」




