研究への魅力
翌朝、俺は周囲に魔物がいないことを確認した後に、情報収集目的で冒険者ギルドへ向かうため町に赴いた。そこで色々調べたところ、山の反対側で魔族が動いているらしい、という情報を手に入れた。
魔族がどのような目的で人間界に入ったのかは不明。そして、現在は派遣された騎士団と戦士団が交戦しており、戦況を優位に進めているらしい。
魔族を討伐できるかどうか情報だけではわからないのだが……聖王国側としては色々と好き勝手にやられている状況であるため、この魔族については相当警戒しているらしい。
そして、この町で手に入る情報はおそらく少し前のものだろうし、情勢はさらに変わっているだろう。よって戦士団などの詳細もある程度わかり……状況的に今から向かっても間に合わないだろうと判断。山の反対側ということで、山や森に警戒を向けるべきだろうと俺は思いつつ、オージュの家へと戻った。
得た情報を仲間達と共有し、ひとまず魔族あるいは魔物が来ないかどうか警戒をしつつ、俺はオージュと研究を進めることに。一方のミリアとアルザは二人で剣の訓練を開始。外で剣を交わす金属音を耳にしながら、俺はオージュと魔法の検証を行う。
一番に強化したのは決戦術式なので、俺は魔法について彼へ伝えると、
「無茶苦茶やるな、ディアス」
「そうでもしないと、対抗できなかったというのもある」
一応、俺がなぜそんな術式を作ったのか、という点については「魔王との戦いが近いという情報を得ていたから」と、若干ボカした言い方にした。詳細を語る場合、俺の過去の話を含め色々と喋らなくてはいけないので。
「ふむ、強力な術式だが反動が色々あると。そして闘技大会の最中に強化した、か」
「ああ、それで改善はしたが……」
「さすがに俺の研究ですぐ強化は難しいが……今後の足がかりにはなるかもしれない」
「お、本当か?」
「自分の魔力を見つめ直すことで、どういう結果を経て体が強化され、反動が出るのかが解明できるようになる。それが事細かにわかれば、ディアスなら対策も立てられるだろ」
「自分の魔力を探求するということが意味を持ちそうだな」
「ディアスの魔法は基本、他者に振り向けるものであるため、俺の研究はあまり意味を成さない可能性もあったが、自分に施す最強の強化魔法、ということなら役立てるかもしれない」
――そして俺達は研究に没頭した。戦士として活動していた時ですらなかった、白熱する会話だった。それはまさしく魔法、魔力というものに対する探求であり、研究者達が日夜繰り返している物事だ。
無論、すぐに成果を得られるとは思わないし、実際一日目は進捗がなかった……のだが、オージュと激論を交わすことそのものに、俺は多少なりとも満足しまた魅力を感じた。
「ディアスは研究者に向いていそうだな」
俺がそのことについて言及すると、オージュはそう言った。
「俺はとことん自分のことだけ追求していた身だから、研究者というものに興味を持てなかった。しかし、ディアスは他者に魔法を付与する以上、研究を繰り返すことで発展性があるかもしれない」
「とはいえ強化魔法だしな……」
「派手さに欠けるのは間違いないし、ディアスの名声をもってしても手を貸してくれる人間がどのくらいいるかは未知数だな」
まあそうだよな……本格的に研究をするのであれば、資材や人員が必要になる。とりあえず今回は戦闘技術面の検証だけに留めているから俺とオージュだけでも色々検証できるが、本質的に調べようと思ったら、相当な時間と労力が必要になる。
そしてこんな研究に付き合ってくれる奇特な人間はそう多くないだろう……ただ、自分なりに追及する、というのは面白いのだと俺はここに来てわかった。今後もオージュから得た情報を参考にして、魔法を磨き上げていくとしよう、と思った。
そうしてこの日は夜を迎え、俺達は穏やかに一日が終わった――翌日になると、オージュの家に村人が訪ねてきた。騎士が呼んでいるとのことだった。
俺とオージュが村へ顔を出すと、調査の隊長をやっていた騎士がいた。そこでの話によると、今後も調査は継続していくとのこと。
「金の瞳を持つ魔物についてもそうですが、また青い瞳を持つ魔物が現れないとも限りませんから」
「とはいえ、いつまでも調査を続けるわけにもいかないんじゃないか?」
「はい。区切りとしては聖王国内に巻き起こっている騒動……これが落ち着いたら、ですね」
「魔族が人間界に入り込んでいるという、一連の事件か」
「はい。騎士団としては今回の魔物騒動もこれに関連している可能性があると考えていまして」
うん、それは正解だ。彼らは再び魔物が来ないかを警戒して、当面様子を見るらしい。
これなら、大丈夫そうだな……オージュとやっている研究に一段落ついたら、旅立つことにしよう――




