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最強のおっさん魔術師、自分探しの旅をする  作者: 陽山純樹
第七章

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引退の真実

「オージュ、まず俺からでいいか?」

「ああ」


 返事を聞いて俺が最初に話し始める。


「研究資料については読ませてくれてありがとう。ただ読んでいて、一つ気付いたことがある」

「何か引っ掛かった物言いをしていたな」

「心当たりとかあるのか?」


 聞き返すとオージュは沈黙。心当たりがない、と断言できる様子ではなさそうだ。


「……まず、話をすると俺が関わった魔族との騒動について。魔王を倒して以降、旅を始めて仕事をしたが、そうした中で町を襲うような輩もいたわけだが……」

「その魔族がどうした?」

「そいつらは特殊な技術を有していた……色々調べたが、結局詳細についてはわからなかったが、オージュの資料を見て、どこか似ていることに気付いた」


 俺の言葉にオージュは無言のままこちらを見据えるだけ。


「偶然にしてはあまりにできすぎている……似ている場所は、他者が容易に同じようなものを作れるとは思えない……何せ、オージュが自分の魔力を研究した箇所だからな」

「……そうか」

「心当たりはあるんだな?」

「俺が言おうとしていた部分にも関係しているから、話をさせてもらう」


 オージュは一度息をついた後、俺へ向け話し始める。


「まず、そうだな……俺が戦士を引退した理由についてだ。多少なりとも疑問は感じただろ?」

「まあ……限界を悟った、というのは確かにあったのかもしれないが、それだけが理由なのか? とは思ったな」

「それは正解だ。もちろん、自分の限界を悟ったというのはあったが……大きな理由がもう一つある」


 オージュは一度空を見上げた。何かを思い出すような仕草を示した後、


「順を追って説明しよう。ディアスが語ったあの魔族との戦い……あの後、自分の限界を感じて進退を決めることにした。正直、英傑入りすることが難しいと悟った時点でやる気はずいぶんと減退していたんだが、まだ色々な可能性を考え引退すると断言することはなかった」

「可能な限りあがこうと考えたわけだ」

「その通りだ……最初に思いついたのは研究機関。俺自身の研究成果……それを利用し、少しでも強くなれないかと考えた。英傑入りすることができるようになる、とはさすがに思わなかったが、近づくことはもしかしたら……そういう期待を込めて、とある組織と共同研究することになった」

「共同研究?」

「俺の能力に目を付けた組織だ。名は『リューオン研究所』という」

「……聞いたことがあるな」


 国立関係の研究所ではあるのだが……あんまり良い噂を聞かない場所だ。


「あそこ、研究物資の横流しとかしてなかったっけ?」

「不祥事が色々とあるにはあるな。とはいえ研究員そのものは真面目だよ。戦士として活動している間に接触してきて、話を聞いて多少ながら世話になったこともあった。待遇もよく、戦士として活動しながら成果を上げたのは間違いない」


 ……俺はオージュの研究資料を読んだが、それはおそらく研究所によって綺麗にまとめられたものだったのだろう。


「ただ、そこで問題が生じた」

「俺が語った内容と関係してくるのか?」

「ああ。結論から言えば研究員ですらあずかり知らぬところで俺の研究成果が誰かに盗み見られていた。あまつさえ、技術を転用して何かしら研究すら始めた」

「それが俺の言ったことと繋がる……と」

「そうだ。おそらく研究所の上層部、もしくは研究所に関連する国のお偉いさんが意図的に奪ったんだろう」


 頷くオージュ。なるほど、研究所自体はまっとうであっても、研究成果をかすめ取ろうという輩が政府関係者にいたら意味はないということか。


「それに気付いた時は手遅れだった」

「……奪われた事実を公表するという手はなかったのか?」

「英傑ですらない俺に発言権はない。それに、リューオン研究所の出資者が誰か知っているか?」

「……いや、知らないが」

「表向きは政府組織になっているが、あそこはギリュア大臣の息が掛かった場所だ」


 ……なるほど、そういう形で繋がってくるのか。


「俺は研究所を幾度か訪れてそうした事実を知った。無論あの大臣の面倒さ加減は俺もよく知っていた。ただ、その政治力を逆に利用してやろうと考えた」

「利用? ああ、なるほど。リューオン研究所だけでなく、大臣の政治力があれば他の研究施設からも情報を引っ張ってこれると考えた」

「そうだ……結果から言えば俺が全てを奪われてしまったわけだが。まったく、馬鹿な話だよ」


 自嘲的に語るオージュ。とはいえ、その顔はどこか清々しい。


「ただその出来事で踏ん切りがついた。俺は研究を終えた後、引退してここに辿り着いた。山奥で暮らす俺のことを大臣も無視して今に至るということだ」

「命を狙われる可能性もあったと?」

「わめき立てればどうかわからなかったが、俺が研究成果を奪われたと気付いている素振りさえ見せなければ逃げ切れると考えた。結果として大臣は俺がこうした事実を知っていることに気付いてはいないだろう」


 その言葉に、俺は小さく頷き同意した。


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