英傑の提案
オーベルクからの予想外の頼み事……今後もミリアが旅についてくる、という可能性はまったく考慮していなかったわけだが……、
「二つ目の依頼について返事をする前に一つ確認だ。このことはミリアに話したのか?」
「いや、まだだ。まずは君に相談すべきだと考えた」
「さすがに理由が理由だ。ミリアの実力を考えればここに残ってあんたを援護する、と言い出してもおかしくないんじゃないか?」
「可能性は十分あるな。ただ、私としてはここにいる方が危険だと考えている故、何かしら動く必要があると考えたのだ」
「なるほど……」
「それに、もう一つの理由もある」
と、彼は一度言葉を切った。
「君がもし渓谷にいる魔物を倒したとしても、いずれ同様の魔物が来てしまったら……ミリアを城へ閉じ込めておかなければならなくなる」
「それは避けたいってことか」
「いかにも。そもそも城内が安全という保証もない」
……そう語る以上、彼にけしかけられた魔物は魔族にとって強いってことなんだろうな。
「うーん……正直、ミリアの回答次第だな」
「君はいいのか?」
「別に構わないよ。自分探しの旅と銘打っているけど、それは一人旅をしたいわけじゃないし」
なんだかんだで共に旅をする仲間がいるのは楽しくもあるし……年齢的に自由に旅ができるのは今が限界だろう。よって、こういった旅も悪くないんじゃないかと思う。
「そうか……ただこう頼む場合、報酬というのは――」
「いや、さすがにこれで報酬をもらうのは気が引けるしいいよ。それにほら、彼女がいることでやれる仕事も増えるからな」
「ずいぶんと君は優しいな……まあ、何かあれば頼ってきてくれ。手紙の一つでも寄越してもらえれば、可能な限り協力しよう」
魔族とコネができた。これはこれで悪くない。
「ではミリアがどうするかに委ねる……で、構わないか?」
「ああ。旅についてくるならそれでも構わない……と、ここで俺から一つ提案があるんだが」
「何だ?」
「ミリアとしては、旅をするにしてもあんたのことが気になるはずだ。内容が内容だからな。もしあんたの身に何かが起きたら、自分がいたらそうならなかったんじゃないかと気に掛ける可能性もある」
「かも、しれないが――」
「そこで、だ。そちらが頼ってもいいと言っている以上、こちらも何かしら動いた方がいいだろ」
「……何をする気だ?」
「たいしたことはない。一筆書くだけさ……俺の手紙がどれだけ効力あるのかわからないけど、まあ聞き入れてはくれると思う」
そう前置きをして説明したのは――国にオーベルクの現状を伝えることだった。
「あんただけの手紙では効果が薄いかもしれないが、俺との連名なら多少なりとも動いてくれるはずだ」
「それはつまり、今後同じような魔物が現れた際に、聖王国が助力すると?」
「少なくともあんたは聖王国にとって有益な存在で、それは国側もわかっている……でも国としては何もきっかけなくあんたに深入りするのはリスクがある、と考えている」
「確かにそうかもしれんが……」
「それを解消するには、多少なりとも王室と交流がある俺の名前を出すのがいいんじゃないかと」
「……君は構わないのか?」
「俺の名が役立つならそれでいいさ。ミリアとはそれなりに交流したからな。今回提示した仕事でさらに縁が生まれるわけだし、ならあんたの無事を確保する術だって用意したい」
……オーベルクは考える。さすがに俺からこんな提案をするとは予想外だったか。で、ここで俺はさらに助言をする。
「といっても王都にいる騎士団がやってくるとは考えにくいし、一工夫必要だぞ」
「それなら私から案がある。現在居着いている魔物を倒したら、国に手を貸してもらい退魔や浄化に属する結界を構築する。大地の力を利用したものならかなり有効だ」
「どのくらい効果がある?」
「相手は魔物である以上、かなり弱らせることができる。しかもこの場所に居座るのであればさらに弱体化ができる。研究の結果、退魔や浄化の力を受ければ魔族特攻の効力はかなり弱まるため、私でも倒せる」
時間を掛けて弱らせるというわけか……。
「なら、その方針でいこう。騎士を派遣する必要性もないし、動いてくれるだろ。あ、念のために確約をもらうまでここにいてもいいぞ」
「至れり尽くせりだな……今いる魔物を倒せば魔界側もすぐ新たな魔物とはならないだろうから、それで間に合うだろう」
「決まりだな……早速手紙をしたためて、使い魔を飛ばして送ろう。魔法で強化した使い魔なら、一日くらいで王都へ到達するはずだ」
早速行動に移そうと立ち上がろうとして……俺は中断する。
「仕事については、まだあるのか?」
「ん、ああ。もう一つだけ……といってもこれは、依頼とは少し違う。もし興味があれば、調べてくれという程度だ」
何だそれ? と思った矢先……オーベルクは思いもよらぬ事を言い出した。
「滅びた魔王について……ある可能性が浮上している――」




