ヌシによる作戦
突撃する魔物に対し、即座に動いたのはアルザ。退魔の能力を活かした斬撃によって、彼女の剣に触れた魔物は例外なく消え失せた。数体まとめて消し去る彼女の剣に、騎士達からどよめきが上がる。
アルザに続いてミリアもまた動いた。後続からやってくる魔物に狙い定め、一閃する。その狙いは正確であり、綺麗な放物線を描いて魔物に直撃、消滅する。
しかしなおも押し寄せる魔物達……だが、ここでミリアは左手をかざした。その手先に魔力が集まり、魔法が生み出される。
閃光が発生し、それが一直線上に放たれた。後方から迫ろうとしていた魔物を射抜き、貫き、その数を減らしていく。
剣に加えて魔法……闘技大会期間中に学んだことで実践されている。そしてトドメとばかりにオージュによる魔法が繰り出された。
「彼女の魔法ほどではないが、魔物を仕留めるには十分だ!」
そうした声と共に撃ったのは、青い色をした光の矢。それは雷撃に匹敵するほどの速度で魔物に飛来して、頭部を刺し貫いた――どうやら速度を大きく強化した魔法らしい。
結果、二人が放った魔法だけで突撃する個体の多くを葬り去る……ここで騎士達が前に出た。彼らは連携によって魔物を切り伏せ、数をさらに減らしていく、
魔族が相手ならば、俺達の戦いぶりを見て攻撃の仕方などを変えてもおかしくないのだが……魔物達は一切作戦を変更せず、果敢に向かってくる。そこで俺は目に魔力を集中させて魔物の長を探した。魔物のヌシ――その眷属が戦っていたことからも、この場所に青い瞳の魔物を率いる存在がいてもおかしくない。
索敵魔法と合わせ、敵の居所を探る……と、迫る魔物達の奥に、明らかに他とは異なる魔力を持つ個体を発見した。
その姿は他と同様に狼ではあったのだが、二回りくらいは大きくて体毛の色が茶褐色。明らかに他とは違うという見た目を持っているため、なんだか逆に罠と思ってしまうほどではあるのだが、
「オージュ、あれがリーダー格と言ってよさそうだな」
俺が杖を向けると、オージュは「そうだな」と返事をしつつ、
「まるで自分がリーダーだとわざと見せているようだ」
「正直罠なんじゃないかと疑っているところだが、魔力を多量に抱えていれば騎士でも何でも襲い掛かる魔物を生成しているくらいだ。わざと色を変えて目立たせるなんて手法はやらなさそう」
「……どちらにせよ、狙わない選択肢はなさそうだな」
オージュが魔法を放つ。その狙いはリーダー格の周辺にいる魔物。最速の光は見事敵に突き刺さり消滅していく。
アルザやミリアも順調に数を減らしていく……ここで俺は、
「オージュ、家に帰ったら今使っている魔法の資料とか見せてくれないか?」
「急にどうした?」
「今更だけど、オージュの魔法に興味が出たって話だよ。俺の方も仕事をしていく上で色々学んでいく必要性がありそうだからな」
「……まあ、そのくらいなら――」
オージュが返答しかけた時、リーダー格の魔物が吠えた。直後、周囲の森に気配が生まれる。
「森中に散っていた魔物がここへ集結しそうだな」
俺は呟いた後、隊長の騎士へ話し掛ける。
「索敵魔法を使わずとも、かなりの気配がここへ来ている……どうする?」
「ディアスさんの力を借りることになりますが、ここで確実に倒しておきたいところです」
「わかった。俺達も同意見だ……長期戦になりそうだから、しっかりな」
俺は再度強化魔法を付与する。それで騎士達の戦意は増し、それと共に周囲から魔物が殺到した。
けれど、俺とオージュが魔法により攻め込んでくる魔物を倒し、騎士達も強化魔法の恩恵か無傷で敵を倒していく。そしてアルザとミリアの剣戟は確実に勢いを増し、森の奥から現れる増援を容赦なく叩き切る。
リーダー格の魔物としては撤退するという選択肢もあったが、再度吠えたことにより新たに増援が来るだろうと予測。さすがに無限ではないだろうが、相当な数がいることは間違いない。騎士の人数はそれなりにいるが、果たして戦い抜けるのか。
そして残る問題としては、魔物のヌシによる作戦。リーダー格の魔物を瀕死にさせて、逃げたところを取り込み情報を得るというわけだが……どれだけ配下の魔物を瞬殺しても逃げる気配はない。傷ついても滅ぶまで戦い続けるのではと思ってしまうのだが……まあ、これはやってみるしかないか。
「リーダー格の魔物について、動きを注視しつつ出方を窺う」
そして俺は仲間へ告げた。
「頃合いだと見計らって号令を出す。そこで一気に間合いを詰めて倒す……それでいいか?」
「わかったわ」
最初に賛同したのはミリア。
「うん、それで」
次いでアルザが魔物を倒しながら応じる。そしてオージュも、
「こっちもそれでいい……が、長期戦になったら魔力がもつのかわからないが」
「枯渇するより前に判断するさ……それじゃあ、頼むぞ――」




