魔物からの提案
騎士ではなく俺達に魔物のヌシが話し掛けてきたのは、話し合いに応じてくれるだろうということを期待してのことらしい。まあ騎士だったら交渉の余地とかなさそうだし、俺達に話を持ってきたのは正解だろう。
『それで、他に質問は?』
魔物のヌシはさらに話を向けてくる。ならば、
「では、そうだな……どうやら金の瞳の魔物はあんたの配下みたいだが、青い瞳の魔物は何だ?」
『あれは最近山の中に入り込んできた同胞の配下です』
「同胞、ということは魔物ってことか。俺達は魔力を分析して魔族由来ではないと結論づけたが……それが正解なのか」
『魔族の手先である可能性は否定できませんが、魔族が入り込んでいるわけではありませんね』
「その魔物はどこから来たのかとかは……わからないか」
『残念ながら。ただ、外部からやってきた個体であるのは間違いありません』
「その時期は?」
問い掛けると魔物のヌシはおよその日数を告げた。ふむ、魔王を倒してからの出来事のようだ。
「ここを狙われる理由とかはわかるか?」
問い掛けると魔物のヌシはずいぶんと明瞭な声で応じた。
『おそらくは、霊脈かと』
「霊脈?」
『ここに存在する霊脈は他と比べてかなり特殊らしいのです。過去、人間の調査員が入り込んだ際、その特殊性によって様々なことができると考察していました』
「そんな話、聞いたことも無いけど」
『数百年前の話なので伝えられていないのでは?』
何百年も生きている魔物のヌシ基準で話をされると、混乱するな。
『そちらの方は魔族のようですが、何かしら情報は持っていないのですか?』
「私も知らなかったけれど……人間界に存在する霊脈の調査をしている魔族もいるわ。仮に今回の騒動を引き起こした魔物について、魔族の手先である可能性はある」
ミリアの発言に俺は視線を向け、
「つまり、魔族が拠点を造るための先遣隊とか?」
「その可能性は十分あるわね」
「だとすると、単に青い瞳の魔物を全部倒しても問題が解決しない可能性があるのか……?」
さて、どうすべきか……と、悩んでいると魔物のヌシから質問が飛んできた。
『あなた方は青い瞳の魔物に関する情報が少ないため対応に苦慮している、という見解でよろしいですか?』
「青い瞳もそうだけど、あんたの配下も同じだな」
『なるほど、そうですか。ではこうしましょう。まず、青い瞳の魔物の狙いは私です。霊脈のある付近を根城にしている私を追い出したいという思惑があり、活動しています。そしてどうやら、魔力を持つ個体を狙えと命令されているため、あなた方戦士に襲い掛かっている』
「魔族ではなく魔物が命令しているから、不自然な動きに見えていると」
『そうです。私はこれから眷属を用いて、青い瞳の魔物……その長へと狙いを定めます。私が動かして相手をあぶり出しますので、皆さんで討伐するのはいかがでしょう』
共闘、という感じかな……。
『騎士団の方々は、自分達の手で倒したということを認識しなければ、おそらく山から立ち去ってはくれないでしょう。であれば、人の手で倒してもらった方がいい』
「まあ、あなたの視点からはそうだろうな」
『ただ、情報を取る場合は少しやり方を工夫する必要があります』
「情報を……何か手が?」
『魔族であれば話は別ですが、同胞であるならばその魔力を取り込んで情報自体を入手することができます』
――魔物は魔力によって形作られている。つまりその魔力を取り込めば、情報も一緒についてくるというわけか。
『なぜ同胞がここへ来たのか……その経緯がわかれば、事態は大きく進みますね?』
「そうだが、具体的にはどうするんだ?」
『青い瞳の長について、攻撃により瀕死の重傷を負わせます。事情を知るあなた方がそれを追討するという形を取り、私が赴き情報ごと長を取り込む』
ふむ、それなら情報は取れそうだけど……戦いがどういう風に推移していくのかで、成否が変わってしまうな。
「口で言うのは簡単だが、正直成功率はわからないぞ。そもそも魔物の長相手に手加減するってことだから、果たしてそれができるのかも……」
『わかっています。しかし、真相に近づく一番の方法でもあります。私としてはここで約束を取り付け、事態の解決を早くしたい。あなた方もそれは同じでしょう? なら、手を組むこと自体は良い方向性だと思いますが』
まあ、確かに……ただ、俺の一存で決めるにしてもリスクがある。
「確認だが、騎士にこのことを伝えるのは――」
『信じてもらえるかもわかりませんし、逆に国側が動き出す危険性がありますので避けて頂けると』
「わかった。ひとまず仲間と相談して対応を決めようと思うが……」
『わかりました。私はこれでお暇しますので、同意したかどうかは行動で証明してください。私は先に言った形で動きます。それを見て皆様はどうするか判断してください――』




