威嚇
俺達は魔物と交戦した川岸を越えてさらに森の奥へ。そしてどうやらあの川がある程度の境界線になっていたのかわからないが、魔物の気配が索敵魔法で引っ掛かるようになった。
「基本的には個々で動き回っているみたいだな」
俺の言葉に対し反応したのは騎士。
「青い瞳を持つ魔物か、金の瞳を持つ魔物か……わかりますか?」
「さすがにこの距離では無理だな。そもそも瞳の色が違うことで魔力の質も違うのか……そこについても検証しないといけない」
とはいえ、研究資材などもほとんどないこの場所でどこまで調べられるのか……やがて真正面に魔物の姿を発見した。その瞳の色は、
「金色だな」
オージュが呟いた時、周辺にいた騎士達が一斉に戦闘態勢に入る。魔物は青い毛並みを持つ鹿の姿を象っており、俺達のことを間違いなく見ている。
さて、どう動くのか……距離はあるし突撃も退避も可能だが……少しすると魔物は、森の奥へと消えていった。
「……金色は消極的ですね」
隊長の騎士が述べる。ここまでは情報通りだな。
ただ、この時点でわかったことが一つある。俺はアルザへ目を向け、
「感じられたか?」
「あんまり……気配を消しているね」
そう、金色の瞳を持つ魔物は、魔力がずいぶんと薄かった……というより、意図的に魔力を制御して気配を可能な限り消している。
さすがに人間の技術と比べれば劣っているため、距離があっても魔力を感じ取ることはできたが……、
「ふむ、魔力を抑えるという傾向が同じ瞳の色をした魔物に当てはまるのであれば、それを利用して索敵できるかもしれないな」
俺はそこで再び索敵魔法を使用。周辺を探ってみるのだが、
「……うん、感じ取れる魔力に濃淡が存在する。これなら見分けが付けられるか?」
「青い瞳の魔物について優先的に調査をしましょう」
隊長が言う。オージュもまた頷き、俺も同意し意識を集中させる。
人間を襲うか襲わないかでどちらを優先すべきなのかは自明の理。ただ、あくまで現状における情報だけの判断であることは注意しないといけない。金の瞳を持つ魔物が人を襲わないとも限らないし、青の方が人を避けるケースだってあり得るだろうから。
少しして俺は青い瞳を持つ魔物と思しき存在がいる地点を伝える。それで騎士達はそちらへ歩み始める。
人の手が入っていない森の中であるため、茂みも深く歩きにくいのだが……獣道を少しずつ進んでいくと、いよいよ魔物の姿が見えてきた。
「……青い瞳ですね」
その魔物の姿は狼。小柄ではあるのだが、明らかに先ほど遭遇した魔物と比べても魔力が濃い。
むしろ、魔力を放ち周辺にいる生物に対し威嚇をしているかのようであり……騎士や俺達の姿を魔物が認めた瞬間、吠えた。明らかに警戒している。
「敵意があるわね」
ミリアが言う。魔族であるからなのか、何かしらつかんだようだ。
「何かを見つければ攻撃しろと命令されているような……そんな雰囲気がある」
「人間相手に凶暴ということか?」
「もしかしたら、魔力を捕捉して襲っているのかも」
「魔力?」
聞き返した時だった。狼の魔物は頭を上げ遠吠えを放った。どういう目的なのか……は、この場にいた者達なら即座に理解できたはずだ。
そしてミリアが代表して口を開く。
「仲間を呼んでいるわね、あれは……」
「おいおい、ずいぶんと好戦的だが……ミリア、さっきの話については――」
「魔力の濃い存在を狙って攻撃するようにしているのかも。なおかつ、仲間を呼んでいることから少なくとも群れ単位で動いている」
彼女が語る間に周辺から気配が生まれた。俺は索敵魔法を使用してみると……続々と俺達がいる周辺に魔物が近寄ってくる。
「ディアスさん」
剣を抜きながら隊長が俺の名を呼んだ。
「数はわかりますか?」
「……現在、十数頭といったところ。でも、まだ増えているな」
「周辺にいる魔物に呼び掛けているようですね。青い瞳の魔物は目撃例から考えるとそう多くないという予想も立てていたのですが……」
その説は完璧に覆された。こうして話している間にも、さらに魔物の数が増えていく。
そんな様子から、オージュは「おいおい」と言葉をこぼし、
「村の方に被害が無かったのが奇跡、というくらいに多いぞ、これは……」
「オージュ、色々と考えられるが……まずは魔物を倒してからだ」
杖を構えた俺は、包囲するように近づく魔物を観察。狼を象った魔物が呼んだためなのか、やってきた他の魔物もその全てが狼。獅子よりは幾分マシだろうが、すばしっこそうだし森の中で戦うには面倒な相手である。
そして瞳の色は……例外なく全てが青。金色がゼロというのは、やはり青と金で明確な違いがあるということか。
ともあれ、考えるのは後だ……まずはこの状況を打破する!
狼が動き出す。それと共に俺は、仲間や周辺の騎士達へ強化魔法を付与した。




