青と金
翌朝、俺達は朝食をとり支度を済ませた後、ミリアやアルザも一緒に村へと向かう。そこでは既に騎士達が調査の準備を終えていた。山に入るということで装備は動きやすい革製の鎧。とはいえあれは、国が承認する防御力の高い素材。なおかつ背負い鞄のような物で物資も持っている。
そうした騎士団の中で、俺を見て隊長の騎士が近づき一礼した。
「ご協力ありがとうございます……早速、動きたいと思いますので、よろしくお願いします」
「ああ」
オージュが応じる――今回の調査、森や山に対しそれなりに知識のあるオージュがリーダー役として立ち回ることとなった。
俺の方が良いのでは、とオージュは言ったのだが、土地の知識がある方が迅速に対応できるということを判断してのものだ。戦闘については戦士を引退して長いオージュは後方に控え、主に俺達が立ち回ることになるだろう。
騎士が先頭となって森へと入っていく。俺は隊の中央付近で指示を出す隊長の近くで歩を進めることとなり、森の奥へ向かう道中で話をする。
「ディアスさん、交戦した魔物について教えてください」
「ああ……といっても、取り立てて特徴があるわけじゃないぞ」
俺は戦った時のことを思い出しつつ告げる。
「魔物の姿形は個々にあるから参考にならないし……」
「何か特徴とかはありましたか?」
「特徴? あ、そういえば瞳の色が青だったな」
そういう魔物もいるので特徴、と断言できるほどのものではないのだが……と、ここで騎士が反応した。
「青、ですか」
「何かあるのか?」
「山に魔物のヌシがいる……という情報から、元々騎士団はこの周辺の調査を行っていました。魔物のヌシと関係性があるのかわかりませんが、基本的に魔物はとある特徴があった。それが瞳の色です」
「色……青とは違う?」
「そうですね。これまで村人が見かけていた魔物は、瞳の色が黄色でした」
黄色……と、ここで騎士は真正面を見据えつつ、
「正確に言えば黄金色なのかもしれません……ただ、最近報告が上がってくる魔物の中に青色の瞳を持つ個体がいるとの情報が」
「瞳の色が違うことで何か変化が?」
「わかりません。ただ、青い瞳の魔物はうなり声を上げるなど威嚇行為に属する動きを取るということも確認されていました。ただ、村の周辺に近寄ることはありませんでしたし、被害も皆無。騎士団の対応としては調査を継続するに留めていましたが」
「ふむ、金色と青色か……」
しかも魔物の行動に違いがある、となったら何か森の中で起きているのかもしれない。
「一つ聞きたいんだが、青い瞳の魔物が現れたのはいつ頃だ?」
「青い瞳の魔物がいつ出現したかは不明ですが、観測するようになったのは魔王が滅んだ後、くらいですね」
オージュが昨日言ったことと同じだな。ということは、
「魔王の動きと何か関係が?」
「そこはわかりません」
「というより、それを今から調査するというわけだな」
「はい、まさしく」
うん、状況は理解できた……青い瞳の魔物が悪さをしている、という可能性は高そうだけど、かといって金の瞳を持つ魔物が安全かと言われると微妙なところだ。
そもそも両方の魔物にどれだけ違いがあるのか? そして魔物のヌシとの関係は何なのか……疑問ばかりだな。今から行う調査でそれを少しでも解消できればいいのだが。
やがて子供を発見した川岸へと辿り着く。俺が騎士へ魔物がいた場所を指さし、まずは騎士達が周辺の調査を始める。
「索敵をするか」
俺は魔法を使用。魔力を探ってみるが……魔物らしき存在はいないな。
「青い瞳の魔物はあれだけだった? それとも、滅ぼされたことで似たようなタイプの魔物は森の奥に引っ込んだか?」
「どちらの可能性もありそうだな」
俺の呟きに対しオージュは自身の見解を述べた。
「瞳の色の違いが何を意味するのかを解明しなければ、魔物の詳細はつかめない……が、確実に言えるのはどちらの魔物も相当知能が高いということだ」
オージュの言葉に対し周辺にいた騎士達の表情が強ばった。
「青と金で大きく違うのは、人間に対する態度だ。青が攻撃的で、金が消極的……まあ、金が単に人間と関わるのは厄介だと感じ避けているのかもしれないが、どちらにせよ魔物達は人間の存在をしっかりと認識していることに変わりはない」
彼はそこまで述べた後、隊長へ向け言葉を紡いだ。
「この調査、どこまでやるつもりだ?」
「……まずは魔物の分布状況を調べるところからですね。さすがに魔物のヌシがいる深くまで調べることはしませんが、人間の生活圏を大きく踏み越えて調査するのは間違いありません」
「長期戦になりそうだな……ディアス、そうなっても付き合ってくれるのか?」
「相応の報酬が欲しいところだが」
「だ、そうだが」
「他ならぬ七人目の英傑……そして『聖王国杯』準優勝者の助力であれば、予算もおりるでしょう。普段ケチなどと言われていますが、重要な仕事ですから奮発しないといけませんね」
隊長の言葉に周辺にいた騎士は笑う……それと共に長い戦いになりそうだ、と俺は心の中で呟いた。




