調査と騒動
やがて町へ魔物が出現したと連絡した村人が十数人の騎士を引き連れ帰ってきた。彼らは俺のことを知っている人間がいたため少し驚いた様子だったが……まず、俺達が村にいて魔物を警戒していた点について礼を述べた。
「ありがとうございます。ここからは私達が対応しますので」
「十数人……ということだけど、大丈夫なのか?」
「山の麓に広がっている村々を守るには辛い人数ですが、明日以降騎士が派遣される手はずとなっています」
その人数までは言わなかったが、様子からして結構な規模のようだ……雰囲気から村を守るだけではなく、討伐へ赴こうという様子さえ窺える。
というより、なんだか用意周到にも見えるのだが……? 疑問に思う間にオージュは騎士と今後のことを話し合った後、
「ディアス、一度帰るぞ」
「わかった」
時刻は昼過ぎ。ミリア達のことも気になるし、騎士が来たので俺達もお役御免だ。
「今後のことは歩きながら話そう」
そしてオージュは食材の入ったかごを背負い、俺と共に家へと歩き始めた。
「まず、魔物の存在を受けて騎士団は本格的に調査をするらしい」
「調査?」
「他の村からも、色々情報が入っていたそうだ。魔物が出現して悪さをしたというわけではないみたいだが、魔物の姿を発見する頻度が少し前から明らかに増えていたと」
「少し前って……?」
「より具体的に言えば」
オージュは少し間を置いて、
「ディアスが魔王に挑み、倒した後からだ」
「……魔王を打倒した後、魔族は王都を襲撃した。それと関連していると?」
「あくまで可能性の話だ。ただ、偶然と片付けるにはタイミングが良すぎたため、近隣にいた騎士達も警戒を強めていたらしい」
なるほど……なおかつ俺が関わった騒動を始め、聖王国内で事件が発生していることから、いずれは調査しようと考えていたのか。
「準備は少しずつ進めていたらしいが、今回魔物が実際に人間へと襲い掛かったことで、本格的に動こうと決めた」
「……調査という話だが、騎士の雰囲気からして討伐部隊がやってきてもおかしくないんじゃないか?」
「かもな」
ずいぶんと話が大きくなってきたな……。
「騎士団としてはよっぽど魔物のヌシを警戒しているのか?」
「今回の魔物がヌシによるものなのかは不明だが……騎士団としてはその辺りを見極めたいのかもしれない。そもそもこの山にいる魔物のヌシは誰も見たことがないし、得体が知れない存在ではある。よって、聖王国としてはどうしたって対処しなければならない対象ってことだろう」
場合によっては今回騎士団が来るという結果、魔物のヌシと戦うことになるかもしれないな。
「問題は俺達だ。協力するか否かはこちらの判断で、とのことだった」
「俺達を戦力として勘定に入れてはいないと」
「騎士団だけで調査しようと意気込んでいるらしい。そうした中で俺やディアスの助力を得ることができれば嬉しいという感じだったな」
「オージュはどう考えている?」
こちらの問い掛けに対し彼は困った顔をした。
「微妙だな。そもそも今の俺が貢献できるのか」
「三年も経過しているし、腕も鈍っていると?」
「鍛錬そのものは運動にもなるしやっている。ただ、魔物のヌシ……それに付随する存在が相手だとすると、自分が戦力になれるのか」
――魔族との戦いで限界を感じた、と言っていた。もしかすると彼は自分の魔法そのものに自信をなくしたのかもしれない。
とはいえそんな彼に対し俺は、
「いや、騎士達と連携できれば十分過ぎる戦力になるはずだよ」
「本当か?」
「ああ……戦力的な意味で不安なのはわかるが、まずオージュ自身がどうしたいかを尋ねてもいいか?」
「俺は……村の人には恩もあるからな。できれば安心させてやりたい」
「なら、それで決まりだろ」
俺の言葉にオージュは少しばかり驚きつつ……やがて小さく頷いた。
「わかった。ディアスがそう言うのであれば、やろうじゃないか」
「アルザやミリアにも手を貸してもらうか?」
「そこはディアス達の判断に任せよう」
「……であれば、たぶん協力してもらえると思うぞ」
――その後、オージュの家へ戻ってきた俺は村で起きた騒動について語る。そして俺とオージュは騎士団に手を貸すということを告げ……アルザとミリアもまた、戦うと表明した。
そして俺は採取した薬草などでポーションを作成する。今回は人里もない森や山の奥における戦いだ。色々と備えはあってしかるべき……オージュも非常食なんかを作成し準備を整える。
オージュの家に帰ってきてからは作業に没頭し、あっという間に時間が流れ……やがて夕食の時間となり、そこでようやく準備を整えた。
そして俺達は家で明日に備え休むことになった。あてがわれた部屋で横になると、どこからか梟の鳴き声が聞こえた。ただ音としてはそのくらいで、夜の森はひどく静かだった。
騎士団が調査し、魔物との戦いに突入するとして、どうなるのか……思考しながら俺はこの日、眠りについたのだった。




