生活に必要なもの
その日は特に何事もなく静かな夜を過ごし……俺は個室をあてがわれて一泊することとなった。ちなみにこの家はやや天井が低めながら二階も存在し、小さいとはいえ何部屋かあるのだが、
「狩人やっていた人が倉庫代わりに用意した部屋だろ」
そうオージュは言い、俺は内心納得した。言われてみると、用意された部屋は薬草らしき匂いがあった。たぶん床とか壁とかに香りが染みついているらしい。
まあ薬草なので特別不快でもなく、問題なく眠ることができ……翌朝、俺は支度を済ませるとオージュに外へ出るよう言われた。
「というわけで朝食用の食材を採りに行くぞ」
「狩りではなく?」
「鹿肉はまだ残っているし、さすがに昨日の量を用意しなくてもいいだろうから大丈夫だろ……魚釣りとかしてもいいが、昨日がそれなりに豪勢だったから今日は胃に優しいメニューにしよう」
「……そういえばオージュって、料理得意だったのか?」
「趣味ってほどじゃないが、それなりにはやっていたぞ……と、こんな生活をする上で、料理スキルはかなり重要になるな」
昨日の話から関連してか、オージュは俺へ言及する。
「何せ食事は唯一の娯楽だからな」
「……とはいえ、町で食事するのとは違うだろ」
「自分で採った食い物で満足できるかどうかが鍵だな。そりゃあ町の定食屋で出る料理の方が上手いかもしれないが、自分の手で見つけ出した食材で作る料理というのも、また良いものだぞ」
オージュは語りながら森を見据える。
「ただ、食える物と食えない物があるから注意だな」
「……自然にある物を採って食べる以上は、サバイバル知識も必要になりそうだな」
「そうだな。ちなみに最初に採って食べる物にキノコはあまりオススメしない」
「もしかして毒キノコを口にしたか?」
「食べはしなかった。見た目で食えるか全然わからなかったから、怖くて採れなかっただけだ」
「……肝に銘じておくよ」
俺達は森に入る。その直後、再びオージュが話を向けてきた。
「なあディアス、あの二人と当面旅をするのか?」
――ちなみに、ミリアのことについては魔族であると話さず、彼には「戦士団を脱けて請け負ったダンジョン攻略で知り合った」とだけ説明してある。一応嘘は言っていない。
「ああ、そのつもりだ。少なくとも……二人の旅の目的が完遂するまでは付き合おうと思ってる」
ミリアの方は魔界の騒動が収まる必要があるわけだけど……まあ、しばらく様子を見て判断してもいい。
「物好きだな、ディアスも」
「成り行きでそうなったわけだけど……個人的に悪くない旅だと思っているからさ」
「……俺も、自由気ままな旅をしたかったな」
そんな呟きが漏れ、俺は首を傾げた。
「別に旅をしても良かっただろ? 戦士団を脱けた以上は自由なわけだし」
「確かにそうなんだが……」
言葉を濁す。何かあるのだろうか?
「騒動の一つでもあったのか?」
そんな疑問が口をついて出たのだが、オージュは何も答えなかった。
とはいえ、尋ねられて不快になったという様子もない……ただなんとなくだけど、こちらを探っているようにも思える。
もしかして俺達を泊めたのは、彼としても何かしら思惑があるためなのだろうか? 疑問はあったがこれはオージュが話し出すまで待つしかないだろうと察し、俺は言及することは避けた。
やがてオージュはいくつか果実を採取して、小屋へと戻ってくる。それだけで足りるのかと思ったが、パンとか野菜とかはちゃんと備蓄しているらしい。
「近隣の村で仕事をして、色々ともらっている」
「仕事ってどんな?」
「魔法が使えるということで、色々だな。冒険者ギルドでやっていた仕事に近い薬草採取とかもあるな」
「この辺りはそれほど魔物はいないんだろ? そうだとしても仕事があるのか?」
「魔物はゼロというわけじゃないし、浮遊魔法がないと危険極まりない場所とかもあるからな。こういう使い手がいることで色々村の人も助かっているらしい」
なるほどな……しかもオージュほどの使い手となると、こんな山奥で暮らすケースなんて皆無に近いだろうし、村の人が頼るのも当然か。
「ん? だとしても俺達が訪れた村の人はオージュについてそんなに話をしなかったけど」
「ああ、あんまり喋らないでくれと言い含めてあるからな」
「徹底してるんだな……」
というか、そこまでやるとなったらさらに疑惑が増える。もしかして誰かに追われているとか? いやでも、例えばオージュが何かやらかして手配書が回ってきたとかも記憶にないし。
それに、俺は冒険者ギルドにまだいて仕事をしているわけだから、そういう人間は追い返すよな……? 色々と疑問を抱きつつも俺は家の中へと入る。ミリア達は既に起床しており、オージュは食事の準備を始めたのだった。




