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最強のおっさん魔術師、自分探しの旅をする  作者: 陽山純樹
第七章

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理想と現実

 食事の後、ミリアとアルザが温泉に浸かりに行った。そこでオージュが「覗くか?」とまったくやる気なさそうな声で尋ねてくるので「アホか」と返答しておいた。

 料理の数が多かったため皿などの片付けが大変であり、俺は手伝おうかと提案したのだが「このくらいはやる」と言ってオージュは井戸のある外へ出ていこうとした。


「……そういえばオージュ、なんでこんな大量に皿とかがあるんだ?」

「大半が暇を持て余して作った自分の作品だよ。皿を変えたりすることで気分が案外変わるんだ」


 そう答えて彼は外へ出ていく。皿などはたぶん井戸の水と洗浄魔法でどうにかするのだろう。

 で、家の中は俺一人になったのだが……今後のことを考える。


 オージュは俺達に引退した理由を語ったわけだが、俺は引っ掛かっている……何かを隠しているという雰囲気はなかったが、それでも他に理由がある気がしたのだ。

 オージュは歓迎しているし、滞在してみて彼の心境を改めて確認する、というのもアリかもしれない……まあ、正直そんなに気にして追及するようなことではない、と言ってしまえばそれまでなのだが。


 俺は家の中を見回す。綺麗に清掃され、きちんと整えられた空間。そして、ここにたった一人で暮らしているオージュ。一人でこんな場所に住んでいるのは不便さもあるだろうけど……なんというか、多少ながら良いなと思った自分もいる。

 辺境で土地と家を購入して静かに余生を暮らす……というのは、退役した騎士とかにも見られるケースだ。もっともその場合はもっと年齢を重ねてからになるのだが……そもそも余生を過ごすとか言ってもそれなりにお金がないと成り立たないし、どうしたって年齢的にも金が貯まるのはもっと歳を重ねてからになる。


 けれどオージュは俺と同年代にも関わらず、こういう風に暮らすことができている……そこについては色々と苦労もあるだろうけど、大きな助けとなっているのは彼が研究に費やした魔法によるものだろう。一人でも魔法を使えば不自由さをあまり感じずに暮らすことができるのではないか……何か参考とかになるだろうか、などと考えている時、オージュが戻ってきた。


「何か考え事か?」

「なあ、オージュ。この場所で家を購入したわけだが、いくらぐらいした?」

「なんだ、興味があるのか?」


 意外そうな顔をしたオージュは、食器を片付けた後に俺の近くまで来てソファに座った。


「といっても、俺は運が良かったと思うんだよな。静かに暮らせる場所を探した結果、ここに辿り着いたわけだけど、購入資金とかそう掛からなかったから」

「前に住んでいた人は?」

「今はこの周辺から離れた町にいるよ。年齢的に狩人が辛くなって、親族に頼るためにここを離れた。俺は家主に金を直接払ってここに住んでいる」


 ああなるほどな……。


「土地を買い家を建てる場合はもっと費用は掛かるだろうけど、俺の場合はそんなに費用が掛かっていないからな。でもまあ、聖王国の端っこで人がいないようなところだったら、タダ同然じゃないか?」

「……うーん」

「俺も正直この家に来たときは不安が満載だったが、余生を過ごす的なものって基本そういう感じだろ。理想と現実にギャップがあるのは仕方がない」


 まあ、確かにそうだけど……。


「ディアスなら魔法とかで色々できるだろうから、騎士とかが退役して田舎に暮らすよりは生活面でも楽できそうだけどな」

「……オージュの場合は自分の魔法を研究し続けた結果、すぐに応用できる魔法が多かったんじゃないか? 俺の場合はキツいと思うぞ」

「単なる強化魔法でも力仕事は楽になるし、十分だろ。知ってるか? こういう場所に住む場合、一日の大半は力仕事に費やされるんだぞ」


 オージュの言葉は実際に暮らしている以上は説得力がある……腰の痛みとかそういう面を強化魔法によって気にしなくていい、というのは生活面で楽になるのは事実かな。


「明日以降もしばらく滞在するか? もしよければ色々と教えてやれるけど」

「……戦士をやっていた時もそう交流がなかったのに、ずいぶんと親切だな」

「こういう田舎の生活に多少なりとも興味があるのなら、是非とも引き込んでやろうかと思っただけだ。そちらが興味ないと一蹴するのであれば、この話は終わりだが」


 ……これを口実に少し滞在してオージュのことを調べるのもアリだろうか? それに、こういう場所における生活についても、興味がないと言えば嘘になるし。


「なら、アルザやミリアが同意したのなら」

「決まりだな。ただ、さすがに薪とかも足らないから明日からは色々と仕事をやってもらうぞ」

「お前、俺のためとか言いながら労働力を確保するために呼び止めたな?」


 オージュは笑う。まったく……とはいえそれなりの口実ができたし、滞在することにしよう。

 やがて入浴を終えたミリア達が戻ってくる。俺は二人に少しの間ここに滞在する旨を告げ、両者は同意したのだった。



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