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最強のおっさん魔術師、自分探しの旅をする  作者: 陽山純樹
第七章

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戦士としての限界

 そして夕刻を迎える前に俺達はオージュの家に戻ってくる。で、狩りの結果だが――


「おおー」


 テーブルには調理された鹿肉の料理が並ぶ。魔法を応用し色々と料理のレパートリーを開発中らしく、並べられた料理はどれもこれも店の料理みたいに見た目的もいい。


「そういえばアルザが大食いだった、という情報を思い出してだな」


 調理を終えたオージュは笑いながらテーブルへ近寄る。


「鹿一頭はさすがに一人では食い切れないし、アルザに思う存分食ってもらおうと考えたわけだ。普段は村の方へ提供して資材とかと交換してもらうんだが、今日ばかりは特別だ」

「悪いな、何から何まで」


 俺が言うとオージュはこちらに目を向け、


「色々と旅の話を聞かせてくれるなら、このくらいはするさ」

「どうやら、相当娯楽に飢えているようだな」

「そりゃあな。今の生活に不自由はないが、娯楽がまったくないというのが悩みのタネだからな」

「なら、目の前の料理に比肩するくらいは語るとしようか」


 ――全員がソファに座り、食事をしつつ俺はオージュへと語った。彼にとって聞きたかったのはやはり魔王との戦い。俺はその詳細を始め、旅を始めた時のことや、さらに現在関わっている事件についても語った。

 さすがにギリュア大臣やヘレンが動いているという点については語らず、あくまで偶然関わった事件に犯罪組織などが絡んでいた、という説明だったのだが……その途中でオージュの顔が険しくなったのに気付いた。


 とはいえその変化は一瞬で、俺の話を聞いたオージュは「大変だな」と呑気に感想を漏らした。


「戦士団に所属していた時よりも精力的じゃないか?」

「それ、他の人にも言われたけど……本当に偶然だからな」

「ディアスがそう言うんならそうなんだろう……しかし、まさかアルザが闘技大会に参加するとは。しかも決勝までいったか……話に聞いていれば観戦に行ったかもしれないな」

「オージュは大会とか向いてなさそうだな」

「俺には無理だ。それこそ、自作の魔法を一人で練り上げる俺には」


 ――と、ここでオージュは俺と目を合わせ、


「気になる、という雰囲気だな」

「……わかるか」

「戦士団に所属していた時と今ではずいぶんと違うからな。そりゃあ不思議に思って当然だ」

「……聞かせてもらえたりするのか?」

「事情を? まあそうだな、別に隠しているわけじゃないし、話すか。といっても、そんな大層な話じゃない」


 俺とミリアは彼を注視。一方でアルザは食事の手を緩めなかったが、視線は時折オージュへ向いている。気になるらしい。


「ディアスは戦士をやっていた時と比べ印象が違うから、引っ掛かったんだろ」

「そうだな……正直、自作の魔法を追求していた以上、誰もいない場所まで来たら当然、その研究に没頭しているのではと考えていた」

「俺を知っている人間は例外なくそういう感想だろうな……確かに戦士の時、自分の魔法こそ最強だ、と自負していた。最強だったかは……英傑入りしていないところから推して知るべしって感じだが、俺としては不当な評価だと内心不満を抱いていたのも事実だ」


 そう述べるとオージュは俺を見据え、


「だからまあ、七人目の英傑などと言われていたディアスにも色々もの申したいところだった」

「ああ、だから色々と突っかかってきたのか」

「若気の至りというやつだな」


 オージュは肩をすくめながら話す。


「評価はどうあれ、自分なりに最高の魔法を生み出せたと自負していたし、いつか自分も英傑に入れる……と、思っていたんだが、ある時急に別の感情が湧くようになった」

「別の?」

「そうだ……言うなれば、限界を感じるようになってしまった」


 限界――戦士としての限界というわけか。


「自己流を選び、英傑候補に名が上がるくらいには有名になったから、これが正解だと考えた……が、引退する直前に参加したいくらかの魔族討伐……それで見解が変わった」


 そう語るオージュはどこか遠い目をしていた。


「悪かった部分を検証して次に活かす……そういう風にいつもやってきた。だが、その時は違っていた。自分はベストを尽くした。持てる力を発揮して戦った。しかし、最前線に立つ者達の背中を見続けるだけで、自分が前に立てなかった」


 ――俺はふと、彼が言う魔族討伐について思い起こす。今振り返れば魔王との戦いまでに前哨戦とすら思えてしまうほどの激闘が続いた。その全てで相手は高位魔族。それらは戦士や騎士の犠牲を出す厳しいものだった。


「ディアスもその場所にはいた。なら、俺がどういう戦いをしていたかは思い出せないか?」


 ……頭の中で記憶を引っ張り出す。


「どの魔族との戦いだ? 候補はいくつかあるが」

「魔族グレイルスだ」

「ああ、あれか……」


 その場にいた英傑はセリーナとクラウス、そしてシュウラの三人。クラウスと共に戦う精鋭クラスの騎士を俺を含めた英傑が援護するという構図だった。


「もし良ければ聞かせてもらえない?」


 そしてミリアが突然提案してくる。そこで俺は、


「血生臭い話だから、食事の時間に話すようなものかな……」

「私は平気よ?」

「こっちも」


 食べながらアルザも言う。俺はオージュを見ると、


「俺も別に」

「……なら食べながら、話すか」


 そう呟きつつ、俺はとりあえず料理を口にしながら語り始めた――


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