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最強のおっさん魔術師、自分探しの旅をする  作者: 陽山純樹
第七章

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人の言葉

「まあここまで来てあっさり引き返す、というのも微妙ではあるな……」


 オージュから泊まるかと提案を受け、俺は考え込む。


「それに……」

「それに?」

「フィールドワークくらいはしてもよさそうだな。この辺りに珍しい薬草とかはあるか? ポーションの調合技術はあるから、何かしら良さそうな物があったら採取したい」

「あー、それなら……」


 オージュは結構珍しい薬草の名を告げた。それは魔力を回復させる他、毒などの治療にも向いている……ふむ、便利そうだしいくらか採取するか。


「ミリアやアルザはいいのか?」


 二人はあっさり頷く。そこで俺は、


「なら滞在させてもらおうか」

「ああ、いいぞ。ちなみに、家の裏手には温泉も湧いている。夜はそこに浸かってゆっくりするといい」

「温泉……至れり尽くせりだな」

「天然資源が多いのがここの良いところだからな。ああ、ただ食料は一人分しかないから確保しないとまずいな。ディアス、宿泊代代わりに狩りに付き合ってくれ」

「わかった」


 というわけで俺とオージュの二人で外へ出る。狩りの経験は一応ある……というか、魔法を利用して罠とか遠距離魔法とか色々できるからな。


「オージュ、何を狩るんだ?」

「とりあえず鹿とか狙うか。少し歩けば見つかるだろ」

「……そんなリーズナブルにいるのか?」

「この山は魔物は少ないからな。その分動物も多いし警戒心が少ない」


 ほう、そうなのか……と、気になる情報を得たので俺はオージュへ言及してみる。


「なあ、立ち寄った村で魔物のヌシがいるという話を聞いたんだが」

「ああ、そうらしいな」

「実際にいるのかはわからないのか?」

「ここに引っ越してきた初日に索敵魔法を行使してみたが、確かにそれらしい気配はあった。山頂近くにいるみたいだな」

「でも、山から降りてこないと」

「三年暮らしてみてわかったことは、どうやら魔物を狩って魔力を維持しているらしい」

「魔物を……? まあ、魔物同士は別に同胞ってわけでもないし、互いに食い合うのは常だけど」


 魔物の密度が大きくなると、そういうケースも多くなる。人間からすれば共食いも同然だけど、魔物というのは個体ごとに特性とか能力が違うので、魔族が生み出さない自然に発生した魔物というのは、基本的には敵同士で互いを食おうとする。


「というか、魔物のヌシは長きにわたり生き延びたことで学習したんだろ」

「学習……?」

「つまり人間や動物ではなく、魔物を狩ることで人に狙われなくなる」


 なるほど……あえて魔物だけを食うことで、魔物が少なくなるため人々の犠牲が減る。よって、狙われなくなるということか。


「興味があって調べてみたが、魔物のヌシに対し討伐命令が下ったことはない。そもそも人間を襲っていないんだ。討伐対象に入る理由もない」

「……そうなるとわかった上で魔物を狩っているとなったら、無茶苦茶知能が高いな」

「場合によっては人の言葉を操るかもな」

「……過去に三例だけだよな」

「調べたことがあるのか? そうらしいな。とはいえ、別に人の言葉が喋れるからといって友好的とは程遠かったらしいが」


 そう、基本的に魔物が言葉を習得するのは、人間との戦いに備えてのことである。言葉がわかれば人間の動きなどを把握できる。自分を滅しようとする存在に対しこの上ないアドバンテージを得られるため、習得するわけだ。

 魔物自身が人間と触れ合いたい、などという優しい理由はない……というわけで基本、人の言葉を操る魔物がいたら倒すように聖王国はしている。まあ実際に、話し合いのできる魔物なんてものがいたら不気味だしな。


「……お」


 話をしている間に、俺達は森の中に一頭の鹿を見つけた。まだ距離はあるし、魔法を撃ってもおそらく逃げられるだろう。


「ディアス、狩りを行う場合の魔法はわかるか?」

「体をピンポイントで貫く、矢をさらに鋭くしたような魔法、だろ?」


 獲物を極力傷つけないように……そういう意図である。


「ああ、そうだ。今回は俺がやろう。ディアスは鹿の動きを止めるような魔法を頼む」

「わかった。進路を塞ぐとか、魔法の檻とか作ればいいか?」

「ああ……というわけで、今日の夕食が豪華になるかどうかは……今の俺達に掛かっているぞ」

「ちなみにだが、ちゃんとさばけるのか?」

「狩りに誘った時点でわかるだろ? この三年で俺も色々とスキルを身につけたからな」


 ……研究をやっていた雰囲気など遠い彼方へ置き去りにするような、生き生きとした表情だった。

 ここまで、俺が意図的に魔法について話をしていないけれど、ミリアとの会話から考えても……ずいぶんと考え方を変えた、と俺は率直に思う。


 ただ魔法を忌避するようになったわけではない。実際に鹿を仕留めようとする彼は魔法を発動させようとしている。自作の魔法を狩り向けにアレンジしたものだろう。この場所に来て、何か変わったということなのか……疑問に思いつつ、俺はオージュと共に動き出した。


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