気になる態度
俺達はオージュの家へと案内され、中へ。結構広めで、リビングは吹き抜けかつ天井も結構高い。
「改装したのか?」
狩人の家だと聞いていたのでそう言及すると、オージュは首を左右に振った。
「俺は大したことしていないぞ。ここに住んでいた人間の趣味だな」
オージュは奥へ引っ込む。お茶でも用意するのだろうと察しつつ、リビングに置いてあるソファへ座る。
ミリアやアルザがそれに倣うと……ミリアが俺へ向け口を開いた。
「なんだか、予想以上にフレンドリーね。ディアスから聞いていた話だともっとピリピリした人かと」
「俺も意外に思っているよ……それに」
リビングを見回す。自室を見たわけではないので断定できないが、広い空間の中に魔法に関連する資料みたいな物が見当たらない。
引退した理由が研究に没頭するため、とかだったら家中資料で埋め尽くされていてもおかしくはないのだが、そんなことはなく整理整頓されており小綺麗な印象を受ける。
やがてオージュはお茶を持ってくる。それを受け取りちびちびと飲みつつ彼へ尋ねた。
「なあオージュ。今更聞くんだが……突然引退したのは理由があるのか?」
「あー……」
と、なんだか微妙な反応。理由があるのかな、と思いつつもあんまり話したくはないようだ。
「ああ、喋りたくないなら話さなくていいぞ」
「……ここに来たのはその辺りを訊くためじゃないのか?」
「知り合いの名を聞いて、気になったから訪ねただけさ。ほら、なんだかんだで腐れ縁みたく一緒に戦ったりもしただろ。正直、仲が良かったかと言われると微妙だけど、少なくとも戦友としてそれなりに交流もしたからな……顔を見ようかと思ったんだよ」
「ちなみに名を聞いた、というのは誰から?」
――戦士の名を告げるとオージュは渋い顔をした。
「あんまり話すなって言ったんだが」
「何でだ?」
「単純にあんまり来られても面倒だと思ったからだ。戦士の時、色々と学者筋の人間から研究に参加しないかと言われてさ。風の噂によると今でもオージュを見かけたら居所を教えてくれ、みたいなことを言う人間もいるらしいからな」
「そうか……それは確かに面倒だな」
俺は納得しつつお茶を飲む。ちなみに現段階までミリア達は彼へ何一つ言及なし……様子を見ているのか。
「誰かと研究することについて、今でもやる気はないのか?」
なんとなく訊いてみるとオージュは沈黙した。視線を向けてみると、なんだか複雑な……どう返答すべきか悩んでいるように見えた。
「……俺は自分が納得できればそれで良かったからな」
「なるほど。ただオージュほどの腕前だと、研究以外の分野でも他者が放っておかないよな」
「そうかもしれないが、そういう世界とは縁を切ったんだよ」
その返事についてはさっぱりとしたものであったため、本心だろうと推察できた。ただ、なんとなくだけど何か隠しているようにも見受けられる……が、ミリアやアルザもいることだし、話そうとはしないか。
口を軽くするなら、信用を得ることから始めないといけないが……さすがにこの場所に留まって交流を深める、というのはオージュの迷惑になるだろうから却下かな。ふむ、どうしようか。
「……あの」
と、ここでミリアがオージュへ向け発言した。
「屋根の修理をしていたとのことだけれど、そういうのって魔法は使わないのかしら?」
「魔法で分析して必要な補修をする、といった感じだな。例えば雨漏りをしていて該当箇所に魔法を掛けて塞ぐ、というやり方はあるがその魔法は永遠に続くわけじゃない。霊脈とか利用すれば話は別だが、屋根の修理にそんなものを使うのは無茶苦茶だろう」
「ええ、そうね」
「というわけで、問題箇所を確認して物理的に解決する、というのが正解だ。魔法による処置はあくまで応急的なもの。外が嵐で修理に行くことができない、みたいな状況で使われるものだな」
「魔法も万能ではないと」
「魔法による知識を持つほど万能感に酔いしれるが、実際はそういったものではない。魔法というのはあくまでツール。生活に役立てようとするなら、そういう風に扱うべきだ」
……俺はその言葉になんとなく疑問を抱く。オージュはどちらかというと、魔法に対し万能、あるいは全能的な信頼を寄せている人物だったはずだ。
この心境の変化はどういう理由なのだろうか? 疑問ではあったのだが尋ねるには信頼を得ないと答えてくれないか――
「ディアス、今日はどうするんだ?」
ふいにオージュから問われ、俺は眉をひそめる。
「今日はどう、とは?」
「こんな辺鄙な場所まで来た以上、最終目標は俺の家だろ? なら、顔を見に来るという目標は達成したわけだが……さっさと帰るのか? 部屋は空いているから泊まっていっても構わないが」
……人付き合いの度合いはそれなりだったが、俺だけならともかく親交のないアルザはおろか初対面のミリアを含め、歓迎している雰囲気。やっぱりその態度が気になるし……俺はオージュへ向け口を開いた。




