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最強のおっさん魔術師、自分探しの旅をする  作者: 陽山純樹
第七章

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元戦士

 俺達は訪れた村で一泊した後、翌日改めてオージュの家へと歩き始めた。元々そこには狩人が住んでいたらしく、一応道もあるのだが、手入れについてはさすがに限界もあり、歩きにくい道を進むことに。


「話によるとオージュは一人で暮らしているらしいな」


 俺は歩を進めながらミリア達へ話す。


「最初に話した通り、研究には興味ないけど自分が作り上げた魔法についてはこだわりがあるし、魔物などを倒すことに全てを費やしていたくらいだから……こんな場所で暮らしているという姿が正直想像できない」

「それだけ意外ということね」

「ああ。研究者になるってことはないにしても、引退後も魔法の追究だけはすると思っていたからな」


 伸び放題の木の枝や雑草を避けつつ俺はさらに進んでいく……と、距離はあるが建物が見えた。

 それと共に、音が聞こえてくる……トンカンという金槌を叩く音である。


「屋根の修理でもしているのか?」


 俺は予想しつつ建物へ近づいていく……と、家の手前はやや開けた場所で、井戸や物置小屋が設置されているのが見えた。

 そして肝心の家だが、レンガ造りで木製の屋根で……屋根の上から音が聞こえてくるのだが、俺達が近づいたことで音が止んだ。


「――ん?」


 そして屋根の上から下を覗き込んだ男が一人。茶髪の男性で、そういえば戦士時代は切るのが面倒だとして伸ばしていたが……どうやらそれは変わっていない。

 美形と言われれば美形なのだが、年齢のこともあってちょっとばかりやさぐれている印象もある……で、俺は、


「よう、オージュ」

「……おお? ディアスじゃないか――」


 と、そこで身を乗り出したのだが見事にバランスを崩し、屋根から落ちた。


「へ!?」


 ミリアが驚愕の声を上げたのだが……当のオージュは魔法を使って地面に落ちる寸前にふわりと体の動きがゆっくりとなり、着地に成功する。


「どういう風の吹き回し……というか、なんでここに来れた?」

「近くの町でオージュがいるという話を聞きつけてだな」

「それで会いに来たのか? というか、別に会いに来るような間柄だったか?」

「手厳しいな……まあ同業者でそれなりに交流もあり、年齢も近かったということで様子を見に来ただけだ。迷惑だったらすぐに帰るが」

「いやいや、こういう場所だからロクに話し相手もいなくてだな。久しぶりに会ったしちょっとばかり話をするか」


 そう言いつつオージュは俺へ視線を向け――その後、後方にいるミリアとアルザを見た。


「ほう、片方はアルザか」

「アルザの方は知らないと言っていたが、オージュは知っているのか」

「直接面識はないが、活動している姿は見かけたことがあるからな。で、もう一人は?」


 ……さすがに魔族であることを説明すると面倒だし、とりあえず黙っておくか。


「ちょっとした縁で同行している」

「ディアス、戦士団はどうした?」

「世情には疎いみたいだな……魔王と戦ったという情報は持っているのか?」

「ああ、そこは知ってる」

「その後、戦士団を脱けたんだよ」

「それ、セリーナに追い出されたとかじゃないのか?」


 ……セリーナの性格を知っているが故に、彼は核心を突いてきた。


「まあ、そういう雰囲気ではあったけど、俺は自分探しでもするかと思って受け入れた。その後、旅をし始めてしばらくしてからセリーナとは和解したよ」

「ああそうなのか……そっちも色々あったみたいだな。話を聞いてみるのも面白そうだ」


 なんだかウキウキしている……俺はふと、以前のオージュを思い出す。研究と、実戦による検証以外は一切興味がないというストイックな人物だった。時にその目は血走り、研究に言及することがあれば無茶苦茶突っかかってくるような、非常に癖の強い人物だった。


 魔法が関わらない時はそれなりに愛想も良かったのだが、戦士としては関わると面倒なタイプ……ただまあ、研究部分に触れなければ制御はしやすかった、という評価だった。

 実力もあったし、そういう面では一目置かれていたのだが……そうした人物像から、今のオージュはかけ離れているように見受けられた。


「屋根の修理をしていたのか?」


 何気なく尋ねるとオージュは頷き、


「ああ。数日前の雨で雨漏りが確認できたからな。古い家で隙間風なんかも入り最初は大変だったんだが……補修を繰り返してだいぶマシになった」

「家の修理なんて戦士時代では考えられないだろ」

「そうだな。でもこんな場所で暮らしているんだ。自分で何でもやらなきゃまずいだろ」


 肩をすくめるオージュ。そこで俺は、


「戦士を引退してどのくらいになる?」

「丁度三年だな。もう三年か、と思う時もあるしまだ三年しか経っていないのか、と感じることもある。季節の巡りというのは面白い。山も森も毎回違った表情を見せてくれる」


 ……やっぱり、戦士の時とは違いすぎる。ここまで心境に変化があったというのは、何か理由があるのだろうか?

 俺が胸中で疑問に抱いていると、オージュへ家へ入るよう俺達へ促す。


「まあ家にどうぞ。大したものは出せないが、歓迎するぞ――」


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