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最強のおっさん魔術師、自分探しの旅をする  作者: 陽山純樹
第一章

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彼女の親族

 階段の先にあったのは重厚な扉。扉の両脇には魔法の明かりがともされており、視界は問題ないのだが……なんというか、入るのに躊躇するくらいには迫力がある。

 しかし訪れたことがあるためかミリアは構わず進んでいく。そして扉に手を掛けようとした矢先――扉はひとりでに開き始めた。


 奥は……人間の屋敷にあるようなエントランスだった。ミリアが進むので俺とアルザもそれに従い進んでいくと、真正面に貴族服を着た男性と侍女が二人いた。

 侍女は赤い髪と青い髪を持っており、容姿から双子か何かのように見える。そして貴族服の男性……身長は高く、見た目は四十代半ばといったところだろうか。ひげはないがその立ち姿は上流階級で政争に揉まれてきた歴戦の貴族……という風で、なんというか王族のような存在に通じる雰囲気がある。


 その三者からは明確に魔族の気配を感じ取る……こちらが視線を交わした矢先、ミリアの前に男性が歩み出た。


「この渓谷に足を踏み入れた段階でわかっていたが……まさかここまで来るとは」

「お久しぶりです、オーベルク叔父様」


 オーベルク――名前を記憶する間に、彼は柔和な笑みを湛えつつミリアに近づき彼女の肩に手を置いて労いの言葉を告げた。


「よくここまで来た。本当なら私が迎えにいくべきだとは考えたが……」

「魔王が潰えたことでここにも問題が出た、ということですね?」

「ああ、そうだ……さて、ミリアを連れてきてくれたのは人間か。しかもどうやら相当な手練れ」


 視線をこちらへ向けてくる。自己紹介しようとしたが、オーベルクはそれを手で制した。


「まずはこちらから。私の名はオーベルク=ラシュオン。名で呼んでもらって構わないし、わざわざ改まった口調で喋る必要もない」

「……ディアス=オルテイル」

「アルザ=マドック」


 名を告げるとオーベルクの目が少し開いた。黒い瞳は俺とアルザを一瞥し、


「ほう、その名は聞き覚えがある。確か英傑の七人目として『久遠の英傑』と呼ばれていた御仁と、英傑入りを果たしていた女性剣士か」

「……俺達のことは――」

「人間側の世情について調べるのは極めて当然のことだ。ふむ、なぜミリアと共に行動しているのか気になるし、まずはその辺りの事情などから話してもらえると助かる」

「わかった」

「それでは、お茶でもしながら……いや、食事の席を用意すべきか? 二人は今日どうする気なのだ?」


 実はその辺り、あんまり考えていなかったのだが……ちなみに現在時刻は昼前。山を下りようと思えばできる時間帯――


「いや、ここは歓待しなければならないな。ミリアがこうして無事にたどり着けたのは、間違いなく二人のおかげだ」

「はい、そうです」


 ミリアはオーベルクの言葉に頷く。それを聞いて彼は、


「ならば、是非ともここに留まってもらおう……そうだな、まずは食事にしよう。食堂へ案内を」


 そう言ってオーベルクは侍女へ指示をしたのだった。






 エントランスから次に訪れたのは大きな部屋。会食などに使われるのかずいぶんと長い机が存在し、俺とアルザはオーベルクやミリアと対峙する形で食事を進め、なおかつ事情を説明する。


「……というわけで、さすがに善意百パーセントというわけではないけど」

「無論だ。むしろ報酬目当てということで納得もいく……が、一つ疑問がある」

「何だ?」

「魔族から金をせびろうとする、というのはずいぶんとリスクのある行為に思えるが」

「ミリアのことは最初から信用できた。それはまあ、嘘を見破る魔法を使ったこともあるけど……とにかく、彼女の様子からあんたは少なくとも道理があれば話を聞いてくれる御仁だと考えたわけだ」

「なるほどな」


 それで納得したのかオーベルクは一度言葉を切った。


「しかし、自分探しか……ミリアの護衛をやり、剣士アルザの目標のために手を貸す……その状況下で、きちんと自分の目的は果たしているのか?」

「こうしてあんたと話ができていることで見識が広がっている……自分探しの材料については集まっているし、何より楽しいからこれでいい」

「ほう、そうか。しかし、護衛とはいえ魔族の居城まで訪れるとは……胆力については恐れ入る」

「いやいや、入口は結構な迫力があったし、ミリアがいなければ入ろうともしなかったぞ」


 その言葉にオーベルクは笑い出す……とりあえず俺やアルザに対する心証は悪くないようだ。


「……ふむ、そうだな」


 そして何やら考え込む。


「報酬については、この城を出る際に渡そう。あと、二人は大事な客人だ。ここに滞在している間は可能な限り要望を聞くし、長居しても構わないぞ」

「どうする?」


 アルザに問うと「どっちでも」という返答が来たので、


「なら、少し……厄介になろうかな」

「いいだろう。では食事の後、城内の案内から始めようか」


 ――その様子は、久方ぶりに来た客人に対し嬉しそうな雰囲気さえあった。


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