国に影響を与える存在
救われた、か……ヴィルマーの心の内では、将来に対し漠然とした不安感とかそういうのがあったのだろう。武を極めるにしても限界が近づいてきてしまった。けれど生き方は変えられない。しかし、何かきっかけがあればと大会に参加し、アルザによって見いだした。
「そういうわけで、村の復興については全力を尽くすつもりだ。ディアスも自分探し頑張れよ」
「……ヴィルマーの大変さに比べれば、俺のやっていることなんてずいぶんと軽いな」
「そうか? 俺はそう思わない。むしろ、七人目の英傑として……どんな決断をするにしても、聖王国に影響が出る以上は世間的に大きい出来事だろ」
……国に影響? 信じられないという面持ちでいると、ヴィルマーはさらに語る。
「魔王に挑んだのを筆頭に、聖王国に多大な貢献をした魔法使い……実力は確かにセリーナとかに劣るかもしれないが、七人目の英傑なんて言われるだけの実力を持ち、何も語らないだけで十分な発言力もある。影響は出て当然だろ」
そうかなあ? と首を傾げるとヴィルマーは苦笑した。
「ま、いいさ。自由気ままに旅をしているのなら影響はないだろうし、ディアス達を見て騒がれるようなことにならないだろうが……その気になれば、エリオットのような苦労もなく戦士団が結成できるくらいには影響力があるのは間違いないだろ」
「……それはまあ、なんとなくわかる」
例えば俺が「魔物を倒すために戦士団を作る」とか表明したら、参加しようとする人間は結構出てきそうだ。アルザなんかがいればなおさらだろうな。
「しかも小規模じゃなくて大規模な戦士団、だな。ディアスは影響力を行使していないからさほど話題になっていないが、もしその影響力を使うことになったら……良い意味でも悪い意味でも、聖王国から注目されるのは間違いないだろ」
「……とりあえず、注意することにするよ」
「ああ、そうだな。さて、俺も準備をしないと。ああ、それとディアス」
俺の名を呼んだヴィルマーは、笑いながら語る。
「ディアスやアルザと出会えて、俺も闘技大会楽しかったぞ。一緒に鍛錬するというのは良いものだな」
「そう思ってもらえたらこっちとしても交流して良かったよ……ヴィルマー、元気で」
「おう」
快活な返事と共に、俺達は別れることとなった。
翌日、俺達は町を出た。旅の目標をとりあえず決め、進路は南。今まで騒動とかに関わってきたし、今度こそゆったりとした旅……だったらいいなあ。
「そういえば、ディアス」
歩いているとミリアが声を掛けてくる。
「大臣関連で何か新しい情報はあるの?」
「現時点では特になし。町を離れる前にクラウスに対しても話をしたけど、続報はゼロだ。エリオットから情報を得ようという動きも今はしないみたいだし、闘技大会で起こった騒動によってギリュア大臣と戦う、という展開にはならないみたいだ」
ただまあ、これをきっかけに……というのはあり得る。
「ただヘレンは、騒動で得た情報などから色々と動くみたいだけど」
「ディアスへ指示とかは来ているの?」
「いや、何も。連絡をとってみたけど自由にしていてくれみたいな返事が来たし、当面は旅を続ければいいさ」
必要があったら、ヘレンの方から話が来るだろう……ということで、
「よって、俺達は旅を続ける……その中でアルザ、ヴィルマーが郷里へ帰るということで、村の復興が大きく進んだわけだが」
「お金は稼がないといけないかなあ」
「とはいえ、一朝一夕でどうにかなるものではないからな。ここまでやった仕事でそれなりに貯まっているだろうし、路銀稼ぎで仕事をしつつ目的地を目指そう」
「闘技大会によって、大きな仕事とかも来るのかな?」
「どうだろう。現在聖王国内で色々と騒動があるけれど、一つ一つの事件は大きいものじゃない……冒険者稼業で一気に稼ぐにはダンジョンに潜るか、あるいはそれこそ魔族を倒すための大きな戦いに参加するとか……まあ、戦いについては基本戦士団が請け負うわけで、三人で活動するようなパーティーに依頼したりはしない……のが普通だけど」
俺はミリアとアルザを一瞥した後、
「俺という存在に加えアルザもいるからな。それこそ一騎当千として、相応の報酬が支払われるようなデカい仕事が舞い込んでくるかもしれない」
「そっか……ま、ギリュア大臣絡みで国にせびるというのも一つの手かな」
「それもありだが、あんまり足下見ると信頼無くするから注意してくれよ」
ただヘレンはケチくさいわけでもないから、彼女が相手なら相応の報酬はもらえそうだけど……。
「ともあれ、大きな事態に発展するまでは時間も掛かりそうだし、今のうちにやりたいことをやろう……というわけで、進路は南だ」
目的地まで結構距離はあるのだが、俺達が魔族討伐の仕事とかを引き受けなければ予定通り辿り着くことはできるだろう……闘技大会を経て成長した俺達が進む先は何があるのか。ほんの少し期待を込めつつ、俺達は街道を進み続けた――




