救われた者
翌日、町を離れる前に最後の情報収集を行った。エリオットが結成しようとしていた戦士団については、他ならぬ団長がいなくなってしまったため空中分解という結果になった。
彼が捕まったという情報も出回り、町の人々からは失望の声なんかもあったのだが……無用な混乱はなかったようだ。
そして町も平穏を取り戻し、観光客の多くが町を離れた。大通りを進む人々の姿を見ると、お祭りが終わったんだなとしみじみ感じた。
また、肝心のエリオットについてなのだが……町を出る前に再度クラウスと顔を合わせて話をした。結果から言えば、何かしら魔法が掛かっており、下手に干渉すれば彼自身の命が危うい……つまり、クラウスが当初考えていた通りだった。
ただ、この事実によりクラウスは一層警戒した……というのも、かなり手の込んだやり方だったらしく、彼の背後には相当重要な人物がいるのだろうと察することができたらしい。
「現時点では、下手に首を突っ込むべきではないと思っている」
クラウスは俺にそう話した。
「エリオットが捕まったことで犯罪組織の調査は進めることにするが、彼の身辺調査はしないつもりだ。まあ、おそらく情報そのものが出てこないという結論になるだろう」
「それはそれで不気味だけど……」
「だからこそ、余計な手出しはしない」
クラウスの頭の中では怪しい人物がいて、その人物が動き出す可能性を考慮し、調査しないと決断したのかもしれない。それはやはり、ギリュア大臣なのだろうか?
「犯罪組織の調査の中で、より具体的な情報を手に入れることができた時、初めて動き出すことにしよう」
……ギリュア大臣という黒幕を把握していないにしても、ヘレンと同じ結論に至っている。とにかく今は有力な情報……確固たる証拠が先、というわけか。
主犯者がわからないまでも、クラウスもまたギリュア大臣を打倒するべく動き始めようとしている。この調子ならいずれヘレンから真実が語られるだろう。そうなったら共闘することになるに違いない。
今回、思わぬ形でギリュア大臣に関連する存在と戦ったわけだが……事態そのものは進展しないだろうな、という予感はあった。確かにエリオットの存在はギリュア大臣にとってアキレス腱になり得るものだが、クラウスなんかも下手に干渉したくないと考えているようだし、すぐにどうこうする、ということにはならないだろう。
一応状況を進ませる方法はある。エリオットと取引を結び、なおかつ彼に付与されている魔法を解除すれば、話ができる……が、そこまでしてもギリュア大臣としては彼と縁を切り知らぬ存ぜぬを通して終わるだろう。魔法解除も成功するかわからないし、彼に固執して時間を無駄にする可能性もある……どうするかはヘレンやクラウスに任せるとしよう。
で、俺達は大会が終わった数日後に町を離れることとなった。次の目的地なんかは決めていなかったのだが……観光情報などを漁るうちに、とある場所に興味が湧いたのでそこへ行くことにした。
「――というわけで、明日には町を出るから」
ある酒場、俺はヴィルマーと顔を合わせそういう報告を行った。
「そうか。俺も数日以内に郷里へ戻ることにする」
「……優勝者、ということで何かないのか?」
「ここにいれば食うに困ることはないみたいだがな。ま、俺としては戦士そのものに未練はなくなったし、名声や栄誉なんてものはこれ以上いらないな」
ずいぶんとさっぱりとした……いや、優勝したことで清々しさすら感じさせる言葉だった。
「それに、だ。村の復興なんてものはおそらく武を極めるより大変な難事業だろう」
「ははは、違いないな……たださ、ヴィルマー。戦士として最強を夢見て旅をして回った以上、何かしら思うところはあるんじゃないのか?」
限界が近づいたからこそ、思い立って闘技大会に参加したわけだし……と、ここでヴィルマーは苦笑した。
「お見通しというわけか?」
「そういうわけじゃないが……」
「……正直なところ、相当な葛藤があったさ。限界が差し迫っていることで、岐路に立たされた。このまま無我夢中で剣を極めるのも選択肢の一つ。しかし、そんなことを続けて先には何がある? と自問自答する日々だった」
そこまで話すとヴィルマーは肩をすくめ、
「ただ、そういう生き方を選んだのは俺である以上、誰かに頼らず決断しなければならなかった……大会に出ようと考えたのは、自分の力を大会の記録によって刻みつける意味合いもあったが、それ以外に他に何かないか、と他者と交流することで探していた面もあった」
「それは見つかったのか?」
「ああ、まさか同郷の人間と出会うことで見つけることになるとは予想もしていなかったが……決勝戦の後に、俺はアルザに礼を言ったんだ。新たな目標を見いだした、と。本人は大して興味なさそうだったが……ある意味、アルザに救われたと言い換えて良いかもしれないな――」




