道半ば
その攻防はまさしく、俺とエリオットの互いが全力を尽くしたものであった。
俺の杖が魔力を限界まで込められた状態で放たれる。大してエリオットも剣に魔力を全力で込め一閃する。杖と剣である以上はエリオットの方に分がある……と、この戦いを観戦する騎士達は感じたかもしれない。
けれど結果は――俺の杖がエリオットの剣を弾き飛ばした。こちらの衝撃に彼の強化は耐えきれず、剣を手放す結果となった……それを見て他ならぬエリオットが驚愕した。
「馬鹿、な――」
続けざまに繰り出したの俺の杖がエリオットの体を捉えた。当たったのは腹部。結果、彼の体は吹き飛び、呻き声を漏らしながら倒れ込んだ。
そして動かなくなる……気絶したらしく、その体を騎士が押さえ込んで拘束を始めた。
「終わったみたいだな」
背後からクラウスの声。振り返ると騎士を率いて現場にやってきた彼の姿が。
「私の出番はなかったな」
「最後の勝負、俺が負けてもクラウスが来たのなら問題はなかったな」
「いや、どういう形にしろディアスが倒していただろう……先ほど見せていたのが魔王にも対抗した術式か」
「闘技大会を通して何故かこの魔法を改良することになって……身体的な負担は少なくなった。連発はできないけど、体にダメージはあまりいかなくなったな」
「なるほど、そちらも強くなっていると……旅を始めて引退準備でも始めると思っていたが、そういうわけではなさそうだな」
「少なくとも、一連の事件が解決するまで引退は無理かな」
俺も気になるし……などと胸中で思っているとクラウスは苦笑した。
「まったく……まあいい、そういうことなら今後、何かあれば頼らせてもらおう」
「あんまり戦力に考慮しないでくれると助かるな。本来は自由気ままな旅だし」
「善処しよう……さて、捕まえたわけだがこれからどうするか」
「エリオットが勧誘した闘士とかは?」
「罪状を公表すれば戦士団結成の話はなしになるだろう……闘技大会において一時期でも話題の渦中にいた人物であるため、多少なりとも話題にはなるだろうが、大きな影響はないだろう。大会終了後、後片付けのため少しの間私はここに滞在するつもりだし、何かあれば対処するさ」
クラウスがいるのであれば安心かな……俺は小さく頷き、
「エリオットについてだけど……例えば彼と取引をするとか、そういう手法で情報を取るという可能性はあるのか?」
「正直、そこは微妙だと考えている」
「微妙?」
「例えばの話、彼がどこぞの貴族のご子息だとしよう。犯罪組織と手を結んでいたというのは、その家の汚れ仕事をやっていた……そう考えた場合、こうした事態に陥った以上、家側は彼と縁を切るだろう」
「まあ、そうだな」
「加えて、仕掛けを施しているはずだ」
「仕掛け?」
「魔法などによって情報などを喋れないようにしている……無理矢理記憶を引き出そうとすれば、証拠隠滅のために対象を殺害する魔法なんて可能性もあるな。機密情報を保護するためにそうした魔法を使っている犯罪組織は多いし、汚れ仕事をやっていたのなら指示した彼の親族が施しているかもしれない」
「つまり彼を利用して情報を、というのは望み薄だと?」
「無論、色々とやってみるが……そうした魔法は無理に解除しようとするだけでも命が危ういケースがある。いくら犯罪者とはいえ、死へ追いやるようなやり方はできない以上、情報を取れる可能性は低いと考えている」
クラウス自身、尋問などをやったことがあるだろうし、犯罪組織絡みでは先に言ったようなケースが多かった……ということなのだろう。
「彼の素性などを洗って、調べる手段もあるが……」
……たぶん、カトレアが情報を入手した戦士なんかも騎士には話さないだろうな。むしろ情報を聞いた際に「これは誰にも話さない方がいい」と口止めされているはず。
じゃないと、面倒事が降りかかるし……まあ、ヘレンの動きを考えたらクラウスがギリュア大臣のことを知るのは先の方がいいだろうし、ひとまず静観しておくか。
「なら俺達は少し休息をとった後に、町を出て行くことにするよ」
「いいだろう……旅はまだまだ続きそうか?」
「たぶんな。仲間の目的も果たしたし、次の目標とか目的地を決めないといけないんだが……」
ここからさらに行ったことのない土地へ向かってみるのもよさそうだ。あるいは、俺自身自分探しの旅をより強めていくとかでもいいかな?
「ディアスは何かやりたいこととかあるのか?」
ふいにクラウスが問い掛けてきた。雑談っぽい雰囲気であり、俺は一考した後、
「あー、正直これがやりたい、みたいなものはないんだよな」
「そうか。自分探しはまだまだ道半ばの様子だな」
「まったくだ……ゆっくりやるとするさ。それじゃあ、俺は宿へ戻るぞ」
「ああ、協力感謝する」
「報酬だけはきっちり頼むぞ」
「わかっている」
そうした会話の後、俺は宿へ戻ることとなった。




