後夜祭の中で
一体誰が来たのか……などと推測する必要性はなかった。なぜならば聖王国の騎士に支給される鎧を着ていたためだ。
「申し訳ありません、今すぐ大会運営事務局の方へお願いできないでしょうか?」
――俺は騎士がやってきて理解した。これが、カトレアの言っていたことだ。
ミリアへ視線を移す。彼女も事態を察知した様子だったが、
「ミリアはアルザを見ていてくれないか」
「え……?」
「俺にだけ用があるみたいだからな」
ミリアは少し躊躇したのだが……、
「それに」
俺は小声でミリアへ告げる。
「エリオット絡みだとすると、俺一人の方がいい。場合によっては冒険者同士のいざこざになる……ミリアには、あまり関わらせたくない」
「……わかったわ」
ミリアは引き下がった。そして俺は騎士に、
「わかりました」
「では、案内します」
俺は騎士に先導され、宿を出た。
そうしてやってきたのは、運営事務局……その建物にある会議室。待っていたのは騎士であり英傑のクラウスだった。
「すまない、呼び出してしまって」
「エリオット関連の話だろう?」
俺の問い掛けにクラウスは神妙な顔つきで頷いた。
「ディアスも色々関わっていると知り、協力を仰ごうということになった」
「だけど俺一人だぞ。同行者のアルザは疲れ切っているし、もう一人は――」
「ああ、そこは構わない。そもそもディアスだけに協力してもらおうと思っていたからね」
「……汚れ仕事か?」
なんとなく尋ねるとクラウスは肩をすくめた。
「大義名分はあるにしろ、あまり気持ちのいい仕事とは言えないな」
「確認なんだが、どういう理屈でエリオットを捕まえる気なんだ?」
「彼は戦士団を結成するために勧誘をしていただろう? そうした中で興味本位で調べた人間がいて、情報をくれた」
……カトレアのことかな? どうやら匿名で情報提供をした……あの人が調査したとなれば、相当核心的な情報がありそうだな。
「結果として、裏組織に加担していることが断定できるだけの証拠を手にした」
「エリオットはどうしているんだ?」
「現在は新たな戦士団を創設するために動き回っている……後夜祭を開催している中で、一番働いていると言えるかもしれない」
そんな言葉と共にクラウスは小さく息をついた。
「正直なところ、こちらとしては戸惑っている。彼は戦士団に所属する存在として、名が知られている人だったからね」
「それは俺も同じだが……色々と噂も聞いていたからな」
「過去にも何かしらあったと」
「ああ。とはいえ俺はあまり関わりがなかったし、触れないようにしていたけど」
「なるほど……それで、だ。現在彼は戦士団のメンバーを集めて大会が終わった明日以降、本格的に動こうとしているようだ」
「団員は集まったのか? エリオットの考えとしては、大会に優勝して派手に名前を売って知名度の高い闘士を引き込むつもりだったはずだ」
「準々決勝敗退ということで、当初の目論見通り順調とはいかなかったが……本戦一回戦目で優勝候補を倒したことによって、注目される存在となったからね」
あの金星は大きかったというわけか。
「ただ、苦労はしているみたいだが」
「優勝と準々決勝敗退では箔の付き方も違うだろうからなあ。それで、どうやって捕まえる?」
「既に騎士団は包囲網を敷いている。現在後夜祭が行われている最中であり、騒ぎが起きないか多くの騎士が町へ出払っている。そのため包囲するため騎士も目立たず動けた」
「上手いこと隠れ蓑になっているわけか……と、ちょっと待て。後夜祭の間に捕まえるということか?」
「それが一番スムーズかつ、証拠も隠滅されないだろう」
証拠……そうか、戦士団創設となれば表向き色々動き出すわけだし、裏組織に関連する資料とかは処分するよな。
「現在は戦士団勧誘の好機だとして外を動き回っている状況だ。加え、彼自身監視されているとはわかっていない様子。ならば、今捕まえることで重要証拠を手に入れることができるかもしれない」
「……なあ、一ついいか?」
俺はクラウスへ疑問を投げる。
「エリオットに関する情報はどこまでつかんでいるんだ?」
「裏組織に関連する証拠だけだ」
つまり、ギリュア大臣云々については知らないってことかな? カトレアもさすがにそこまで踏み込んだ情報を提供すると、何者だと騎士に調べられるし、場合によって大臣が出てくる可能性があるし避けたか。エリオットの素性を語った際、俺だけに話したのも核心的な情報は胸の内にしまっておくと。
「そうか……クラウスとしては、なぜエリオットがこんなことをしているのか、見解はあるのか?」
――ギリュア大臣がいる、ということについては言及しない。俺がそこまで知っているのはおかしいからな。
そして、騎士が出て証拠を押さえるとなったらギリュア大臣はどう動くのか……俺の言葉に対し、クラウスは少し間を置いて話し始めた。




