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最強のおっさん魔術師、自分探しの旅をする  作者: 陽山純樹
第六章

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大喧嘩

 準決勝、アルザとヴィルマーは特段苦戦することもなく勝利し、決勝は二人の対決となった。同郷であることから話題性は抜群であり、町の人の話題は二人の話で持ちきりだった。


 ただまあ、他ならぬ二人の郷里は既に人がいないわけだけど……そして決勝の日、会場には多数の人が詰めかけ、俺とミリアは二人して会場に入った。

 正直会場に入れないかな、などと思ったりもしたのだが無事会場入りして観客席に座れた。周囲では今か今かと待つ他の人達がいて、俺とミリアは無言で試合開始を待ち続けた。


 ――そして、


『お待たせ致しました、皆様。多数の勇士が集い、戦ったこの聖王国杯――決勝戦を開始致します!』


 実況の声と共に観客が沸騰。それと同時にアルザとヴィルマーが姿を現した。

 二人のことを実況が解説する間に、俺はどういう展開となるのか考える。双方、共に鍛錬してきた以上、手の内はわかっている。となれば一番得意な分野に持ち込むのか、それとも今までにない戦法を用いるのか。


 俺はふと、セリーナとの戦いを思い出す。あれも互いが手の内を理解している状況での戦いだった。ならばこれから起こることは――


 胸中で推測している時、横にいるミリアが俺へ声を掛けてきた。


「ディアス、どちらが勝つと思う?」

「……正直、わからないな。二人がどういう戦いを選択するのかにもよる」

「選択?」

「アルザとヴィルマーで得意とする戦法は違うだろ。仮に純粋な力勝負だとしたら、ヴィルマーの方が有利だろう。一方でアルザの方は……」


 しばし考え……俺は、


「機動力を活かして戦うとか、そういう戦術なら対抗できるかもしれないが……決勝戦で同郷対決だ。となると、二人も思うところがあるだろ」

「作戦とか論理とか、そういうのを無視して……」

「も、あり得る」


 さて、どうなるか……そして、


『決勝戦、始め!』


 号令が成された。直後、アルザとヴィルマーは、真正面から激突した。

 それはまさしく、力と力の衝突だった。アルザはこれまで修行によって手に入れた技法を活用し、退魔の力を循環させながら身体能力を引き上げている。一方でヴィルマーは元々の能力に加え、それこそ「この戦いで全て終わらせても構わない」というくらいの勢いで身の内に魔力を叩き込んでいく。それはまさしく、策謀なしの大喧嘩だ。ミリアが言ったように作戦や論理を超越した、感情や背負っているものを全てぶつけるような戦いだ。


 観客は沸騰し、また同時にどういう風に映ったか……魔力を感じ取れる者は、この勝負が極めて短時間で終わるものと考えたかもしれない。

 実際、アルザ達の戦い方はまさしく短期決戦を想定したものだ。アルザは能力的に長期戦もいけるようになったわけだが、あれだけ出力を引き上げて戦っているのであれば、退魔の力が循環していようとも全力で戦える時間はそう長くないだろう。


 魔力が弾け、それが闘技場内に渦巻くほどの勢いを見せる。さすが決勝戦と考える人が多いのか、熱狂具合はまさしく大会における最高潮だと言っていい――ただ同時に、なんだか名残惜しくもある。正直、大観衆が騒ぐ状況は好きじゃなかったけど、ここまで来ると腹を打つような歓声に慣れてしまい、もう聞けなくなるのかと思うと……そんな感情を抱くのに気付いて、俺は思わず苦笑した。


「……それなりに長い期間滞在したことで、この町の色に少しは染まったのかもしれないな」


 俺の呟きは隣にいるミリアにすら届かず、歓声によってかき消えた。闘技場内ではなおも激突するアルザとヴィルマー。勝負の行方はまったくわからない互角の状況。あの調子だと先に力尽きた方が負けるだろう……アルザは長い時間戦える。ではヴィルマーの方はどうか。

 先に方針転換をしたのはヴィルマー。彼は一度横へ逃れ距離を置こうとする。しかしアルザは追随し、互いに横へ横へと移動しながら剣を交わし続ける。


 やがて両者は一歩後退し、あるいはわざと間合いを外すなどして単純な剣のぶつかり合いだけではなく、歩法など技術的な部分も利用して戦い始める。けれど相変わらず両者の魔力は全開。さらに魔力を消耗することは間違いなく、そう長くはない……俺やミリアは歓声を上げることなく、固唾を飲んで見守るしかできない。

 やがて、一際大きな金属音が生じた。アルザの剣がヴィルマーの剣を大きく弾いた。だが、アルザは追撃を仕掛けない。無理に攻め立てれば逆に追い込まれると、アルザは本能で理解している。


 双方が全力でぶつかり合いながら、仕留める隙を窺っているのは間違いないわけで……ただ、勝負が一瞬で決まるのか、それとも互いが全力を絞り出すまで終わらないのか、予想がつかなくなってきた。

 そして、俺は……最高の舞台だからこそ、二人はどこまでも戦える……そんな予感さえ抱くこととなった。


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