準々決勝
アルザとエリオットの試合はそれぞれが実力者ということもあってか、試合が始まる前の段階でかなり期待されていた。会場入りして席に座った瞬間、周囲の人々はどちらが勝つのか議論を交え予想していた。
二人が戦うのは二試合目だが、既に観客は二人が戦う姿を想像している……耳を澄ませて話を聞いてみると、意見としては半々くらいだろうか。ただ、アルザはこれまで短期戦で勝利してきた。準々決勝に上がってくるまでほぼそれである。それに対しエリオットは長期戦もしっかりとやっているため、アルザが短時間で仕留められなかったら苦しいだろう……という感じの意見で一致していた。
おそらく、修行をしていなければ俺もそういう結論になっていただろうが……今のアルザは、大会に出場登録した時とは違う。
そして第一試合が始まる。観客はそれに対し熱狂し、また熱気が噴き上がった。結果から言えば大半の人が予想通りといった結末だったようで、驚くような声はあまりなかった。
そして第二試合――いよいよである。
『さあ! 今大会において一番の注目を浴びている御仁が登場です!』
そういう実況の口上を受けながら、エリオットが姿を現した。途端、期待を込めた観客の声が会場内に響く。
それに対し、アルザは――実況の説明としては『元英傑、退魔の剣士』というもので、彼女の登場にも歓声が生じた。
両者は一定の距離を置いて対峙する……何やら会話をしているようだが、さすがに聞き取れない。
ただ、なんとなく想像はつく……エリオットはアルザが修行していることは知っているし、それが自分との戦いに備えてのものではないかと推測しているのだろう。まずは探りを入れてみた……果たしてアルザはどう答えたのか。
少しして両者は剣を構えた。戦闘態勢に入ると同時、
『――始め!』
試合開始の宣言が成された。直後、エリオットは刀身に魔力を集め、アルザもまた退魔の力を剣へ叩き込んだ。
そして双方の剣が放たれる――それは一際甲高い金属音を生み出し、斬撃の威力を物語る。観客は沸騰し、俺はじっと戦いの行く末を見守る。
俺は今日、ここへ足を運ぶ前にカトレアの道場を訪れた。そこでアルザがどういった修行をしていたのか語ってもらったのだが……その技法が完成していたら、十二分にアルザに勝機がある。
ただ、短期決戦で勝負がつくのであればアルザとしてはそれが望ましいだろう……激突した剣を先に引き戻したのはアルザ。続けざまに放った剣は、エリオットが見事に受け流し対処。さらなる剣戟もまた同様であり、アルザの攻撃はことごとく防がれる。
苛烈とも呼べる連撃がアルザによって繰り出される……が、エリオットはその全てに対処。これまでの戦いぶりを分析し、動きを見極めて対応している。純粋な力押しはやはり通用しないようだ。
ならばエリオットは反撃を考えるはず……刹那、彼の剣に魔力が生まれた。魔法による攻撃――だが、アルザはその剣へ向け斬撃を叩き込んだ。途端、再び奏でられる金属音。すると、エリオットの剣に収束していた魔力が消える。
退魔の力……魔力を弾く性質を利用し、剣に込められた魔力を拡散させているのだ。エリオットが剣に魔力を込め発動していた魔法をアルザは発動から阻害できる。ひとまずエリオットの大きな武器を一つ潰した形になるが……魔力を弾かれても、彼は動じる様子を見せなかった。
むしろ、想定していたという雰囲気もある……エリオットは方針を転換。魔法ではなく純粋に剣の威力を上げるために魔力を込めたようだ。アルザの退魔の力ならばその魔力も弾けそうだったが……剣がぶつかりあっても霧散しない。退魔でも弾かれない技法を開発したらしい。
ということは、アルザの武器が潰されたことになるが……彼女もまた動じない。そればかりか、そのくらいはやってくるだろうと予想していたのか、動きは一切変化がなかった。
幾度となく剣が交差し、互いの刃がぶつかり合う。決め手と言える武器が双方とも消えてしまっているため、残る可能性は長期戦しかない。
こうなってしまうとエリオットが有利……だと、観客は思っているはずだ。実際、周囲の人々の中には「エリオットが有利だろう」と呟く人もいた。長期戦に持ち込むことで優勝候補も倒したのだ。そういう見解は至極当然だと言えるかもしれない。
だが、違う……アルザはこの状況を打破できる技術を持っている。まだそれを使っていないが……タイミングを窺っているのか。
その時、アルザの剣がエリオットの体を掠めた。その剣戟の動きは予想外だったのかエリオットは目を細めつつ、一歩後退する。予想外のことがあれば距離を取って様子を見る……というのを徹底しているらしい。
そこでアルザはここぞとばかりに足を前に出し、エリオットへ仕掛ける……そうした光景を眺めながら、俺は今朝あったカトレアとの会話を思い出したのだった――




