まだ強く
話し合いが終わった後、ヘレンは速やかに町を離れた。人が多すぎて気付きにくいが、町は騎士達が動いているため、自分がいると知られたら面倒になるかもしれないから、とのこと。
「一応、知り合いも大会には出場しているから、その観戦をしに来たという理由付けはできるけれど」
「ギリュア大臣は用心深いし、どういう風に解釈されるかわからないってことか」
「そうだね」
「……俺達は大丈夫かな?」
「大会に参加する、ということ自体は問題ないと思うよ。今まで騒動に首を突っ込み続けていたけど、今回は単純にアルザが大会に出るだけだし」
――最後にそういう会話をした後、俺は外に出て改めて打ち合わせた内容を確認する。
まずカトレアの動きについては、したいようにさせればいいとのこと。ここで変にカトレアに干渉するとなぜかと尋ねられ、逆に面倒な事態になりかねないから、とのこと。
俺の方はあくまで「ギリュア大臣というヤバい存在がエリオットの背後にいるから、余計な首を突っ込まない」というスタンスを維持する方針だ。
ミリアやアルザはエリオットの件は一任すると言われているし、彼女達の口から誰かに話すようなこともない……ただヘレンからは、エリオットがどういう結末を辿るかは見て欲しいと言われた。俺自身も気になっていたので、そこについては了承した。
ひとまずヘレンの動きに支障がないよう話し合いはできたので、残る問題はアルザがエリオットに勝てるのかどうか。もし彼女が負けた場合、次はヴィルマーかカイン。両者はエリオットと戦うよりも二人がぶつかってしまうため、試合の勝利者がエリオットを迎え撃つことになる。
ただ、可能であればアルザとの戦いで決着をつけたいところ……そうした思惑を抱えつつ、俺は冒険者ギルドで情報収集をすることにしたのだった。
――以降、大会は粛々と進んでいく。運営側にトラブルもなければ、魔族やら魔物が関わった騒動なんてのもゼロ。英傑の一人であるクラウスが運営にいるためなのか、それとも立て続けに俺達にやられて小休止なのか……どちらにせよ、最後まで平和に終わりそうな雰囲気だ。
アルザ、そしてエリオットの両者は順調に本戦を勝ち上がった。双方とも対戦相手を圧倒しており、観客達は二人がぶつかることを半ば確信している様子だった。
ちなみに優勝者が誰なのか賭けを行う場があるのだが、トップはヴィルマーで二番手にエリオットが来ていた。派手に名前を売ったためか間違いなく『聖王国杯』における中心人物の一人になっている。ただ評判についてはアルザも負けていない。というのも、ヴィルマーと彼女が同郷であるという事実が広まり、二人して修行をしているという噂が出ているためだ。
もしかすると、彼女が優勝するかもしれない……ということで、彼女はオッズとしては三番手に位置している。戦いぶりを見て評価している人もいて、エリオットと戦えばどちらが勝つかわからない……そんな言葉も俺は耳にした。
間違いなくアルザもまた大会の主役級の立場になったのだが、本人は気にしている様子もなく、ひたすら修練を重ねている。正直、ここまで熱中している姿は見たことがなかったため、俺としては少々驚くくらいだったのだが、
「本人に言わせれば、楽しいらしいよ」
ある時、カトレアが俺へ言った。
「魔物や魔族相手、というのはディアスもそうだろうけど、生きるか死ぬかの修羅場が続くわけだ。敵に備え鍛錬する場合、楽しいという感情は湧かないだろ?」
「そうですね」
「修行は生き残るための術であり、それ以上の意味合いはないが、闘士というのは試合に勝つために鍛錬をしている。強くなるための手法はもちろんのこと、メンタル面も大きく異なる……アルザにしてみれば、ただ生き延びるための剣だったのが、強くなれば評価され、上へ行けるという剣に変わったため、成長することが面白いと感じているみたいだ」
「……そんな感想なら、闘士になってもよさそうなものですが」
「本人は乗り気じゃないのかい?」
「最終目標は村の復興であり、そこにいる人を守るため、と語っていたので」
「そうかい……なら、アルザはまだまだ強くなれるだろう」
「まだまだ……強く?」
「闘士にならずとも、修行によって強くなること……その楽しさを知った。それと共に魔物や魔族と戦い続けた確固たる意思と、明瞭な目標……これだけ揃って、強くならない方がおかしいさ」
そう語るカトレアもなんだか強くなっていくアルザを見て楽しそうだった。
ま、修行が楽しいのならそれでいい……そしてミリアについても、一通り修練が済んだ。剣と魔法を組み合わせた戦い方。魔族としての力を合わせれば、達人級との戦いでも十分対応できるとのこと。
ミリア自身も満足のいく修行だったらしいし……うん、この町におけるミリアの目標は達成したと言っていいだろう。
ならば後は――そうして、俺達は決戦の日を迎えた。




