本戦開始
カトレアから情報を聞いた夜、俺はミリアとアルザにエリオットのことを伝えた。二人は驚いていたが、その件については俺に任せるという意見で一致した。
そしてヘレンへ連絡をしてみたが、リアルタイムで会話ができる手法ではないので、返事を待つことに。ひとまず闘技大会に集中するということで……本戦に備えて色々と動くことにする。アルザの対戦相手について調べてみる。とりあえず情報は手に入れ、アルザにも伝えたが……有効活用するかは彼女の判断によるものとした。
さて、俺としても情報集めに動いているのだが、そうした仕事もいよいよ終わりになりつつある……アルザやヴィルマー、そしてカインの三人は本戦で勝ち抜けるのだろうか? そんな疑問を抱きながらとうとう――本戦の日を迎えた。
闘技大会『聖王国杯』の本戦会場は町の中央にある一番大きい闘技場。天気は快晴でこれ以上にないくらい清々しい陽気。絶好の試合日和といった案配だが……まあ、流血もするしどこか血生臭い雰囲気はあるから、晴れが合っているかどうかはちょっと疑問ではあるけど……とにかく、
『さあ! いよいよこの日がやって参りました! 勇猛果敢、獅子奮迅の活躍を見せた戦士達の晴れ舞台!』
実況をする人の声にも熱が入る――会場は満員御礼であり、観客席は見渡す限りの人、人、人。農村とかからやってきた人は間違いなく人疲れしそうな光景が広がっている。
そして人々から歓声が上がる……最初は予選上がりの戦士と推薦された戦士との戦いが始まった。予選を突破した人物は動きも良く、予選でウォーミングアップは済ませたという雰囲気だ。
そして推薦された戦士の実力はどうか――双方の得物は長剣で、最初にがっちり刃をかみ合わせた途端、会場が文字通り沸騰した。
激突から最初に後退したのは予選上がりの戦士。すると推薦された戦士が突撃して迫ろうとする。そこから両者は幾度となく剣を交わし――ふむ、レベルが高いな。
剣術については知識があるわけじゃないけど、数々の戦士を見てきたため、強い弱いくらいはわかる。で、本戦第一試合にふさわしいやりとりだと俺は思う。
特に推薦枠の戦士についてもかなり強い……ここはさすがと言うべきだろうか。正直、ちょっと舐めていたかもしれない。
とはいえ予選上がりの戦士だってかなりの技量だし、勝負は完全に拮抗している……やがて、予選上がりの戦士が有利になり始めた。それは戦歴が上回っているのか、それともスタミナか……ともあれ、少しずつ有利になり始め、次第に観客の目にも明瞭となる。
時間にしておよそ五分ほどだろうか――とうとう決着がついた。予選上がりの戦士の剣が相手の剣を吹き飛ばし――勝敗が決する。実況の人間が勝利者の名を告げると、観客はさらに盛り上がる。
……間違いなく、アルザ達にとって大変な戦いになるだろうと思った。二次予選から試合は見ていたが、明らかにレベルが違う。
ただ、アルザが負けるかと言われると……やがて第二試合が始まる。片方は他の戦士と比べても体格が大きく、もう片方は線が細い。アンバランスな組み合わせであり、観客はどういう試合展開になるか各々予想しながら観戦する。
戦いが始まると、線の細い戦士が駆けた。俊敏で、明らかに敵を翻弄するための動き。対する大男は得物である大剣をまずは薙いだ。相手の動きを見極めての斬撃。単なる突撃であったなら攻撃が決まって終了だったかもしれない。
だが線の細い戦士は相手の斬撃を剣で受け流した……それでいてなお、突撃はやめない。傍から見たら強引な突撃に見えたかもしれないが、間違いなく狙いがあるのだと予想がついた。
そして懐へ潜り込んで一気に仕留めようと……そこで、大男も動き、距離を置こうとする。大剣を振りかざし相手を牽制しつつ、自分の理想的な間合いを取ろうとする。
それは最初の試合と比べれば地味に映ったかもしれないが……周囲の人々は熱狂している。闘技大会を観戦し続けている人なら、目の前の情景が相当ハイレベルなものだと理解できるかもしれない。そうした人々が声を張り上げ応援している……まさしくこの闘技大会は、現実とは大きく違う異様な空間だ。
勝敗は線の細い戦士が決した。執拗に迫る彼に大男は業を煮やしたが強引に攻め込んだ。しかし、それこそが相手の狙い――大剣をいなしながら長剣が大男の体へ叩き込まれた。それが決定打となったらしく大男は倒れ伏す。それで試合は終了した。
会場の空気はさらに熱を帯びていく。この調子だと比喩でも何でもなく観客席から湯気でも出るんじゃないかと思った時、俺は次の試合でいよいよアルザが出てくるのだと身構える。これまで大会の経験は積んできた……が、この場所は明らかに違う空間だ。どれだけ離れしていようとも、この大舞台で戦えばどれだけ緊張するだろうか……アルザについては大丈夫なのかどうか。そこについては気がかりだな。
そうこうする内に、実況がアルザの名を読み上げ――彼女が姿を現した。




