彼の素性
二次予選については滞りなく進み、アルザ、ヴィルマー、そしてカインの三人は順調に勝ち抜いて本戦出場を決めた。その間にも三人は修行を進め、俺もまた決戦術式の検証を進めた。
俺の方は検証段階でとっかかりは見つけたので上手いことやれそうな雰囲気。一方でアルザ達は順調に仕上がっており、本戦で戦うとしたら激闘になること必至だ。
で、エリオットについても危なげない戦いによって本戦へ出場。ここに本戦から出場する推薦された戦士とかが加わり、本戦出場者が決定。トーナメント方式で、本戦出場者が全員決まった段階で組み合わせが発表されたのだが、
「……思った以上に大変そうだな」
アルザに対してではなく、エリオットに対する発言だった。まず、最初に激突するのは冒険者ギルドから推薦された戦士。収集した情報によると今回優勝候補の一人らしく、危なげない戦いを繰り広げていた彼であっても苦戦するだろう、とのこと。
ただ、もし勝ったらそれだけ名が知れ渡ることは間違いない……ただ彼にとっては不利な戦いだろう。予選を戦ってこなかった相手である以上、実際に観戦して対策できない相手だからな。可能な限り情報は集めると思うけど、本戦が始まるのは二日後……時間は相当限られている。
アルザやヴィルマー達については、全員見事にバラバラでもし当たるとしたら準決勝。そうした中、順調に勝ち進んできたならアルザは準々決勝でエリオットと当たることになる。
「しかも最初に激突するのはアルザか……試合の期間を考えると、そこまで時間的な余裕はないな」
彼女が戦う相手も推薦によって出場する戦士だが、そもそも勝てる見込みがあるのか……組み合わせ発表を確認した足で、カトレアの道場へ。既にアルザ達は来ていて修行を始めている。
「ディアス、ちょっと来てくれ」
そしてカトレアに呼ばれる。何だろうと思いつつ俺はカトレアの私室へと招かれる。ミリアやアルザは鍛錬しており、今回は俺だけだ。
「どうしたんですか?」
「ディアスにだけは話しておこうかと思ってね」
前置きからするとエリオットのことかな?
「アドバイス通りにエリオットの素性を洗ったんだが……」
「何か出ましたか?」
「ああ、どうやらこの町にエリオットが所属していた戦士団メンバーもいるらしくてね。その内の一人から面白い話が聞けた」
それはどういう……無言でいるとカトレアがさらに話を進める。
「まず素性についてだが、戦士団の誰にも語らなかったらしい……が、仕事を一つ終わらせて酒場で飲んでいた時、エリオットはその戦士に口を滑らせたことがあったらしい」
「口を……それは一体?」
「自分が冒険者をやっているのは、そう指示を受けたためだ。仕事をするために、戦士団に入ったと。かなり酔っていたらしいからエリオットは記憶がないようで、話を聞いていたその戦士は変わった人間がいるんだなと思っただけで特に気にはしなかったらしい」
「戦士団に所属する理由は色々ありますからね」
「で、だ。エリオットが何やら怪しい動きをしているということを知ったその戦士は、以前聞いていた話なんかを考慮してちょっと調べてみようと考えた。といってもやることはエリオットの動向を探ることだ。その時エリオットは戦士団のエースだったため、下手にやれば気付かれてしまう……だから慎重に事を進めた」
「結果、何かつかんだんですか?」
「ああ、そうだ。大当たりも大当たり……で、その戦士はうっかり話をしてしまったら自分の身がヤバいと思って今まで誰にも語らなかったそうだ」
「……今回、よく話をしましたね」
「そこはボニーに感謝しないといけないねえ」
彼女が話術で引き出したってことか。
「さて、核心部分だが……その戦士が見たのはエリオットがとある屋敷へ入った所だ。しかも一度だけではなく二度、三度……そこから屋敷の主について調べたことで、エリオットとの関係性がわかった」
「そこが実家だった?」
「ああ、正解だよ。素性についてはまったくわからなかったエリオットだが、屋敷の主側からアプローチをしたことで、息子であるのが判明した」
息子……ということは、
「エリオットって貴族なんですか?」
「そのようだね。とはいえ、だ。息子とはいえその屋敷内での地位はあまり高くなかった……末っ子らしいし、親はあまり目を掛けなかったということかもしれない」
「なんとなく思うんですけど……妾の子とか、そういう可能性は?」
「戦士はそこまで調べたわけじゃないらしいけど、そうした雰囲気はありそうだ」
……複雑な家庭事情から始まり、エリオットは屋敷の主の言いつけを守り仕事をしていると。それは親に認められたいがための行動なのか、それとも仕事をすることによって、何かしら地位を約束されていたのか――
「その情報以外でエリオットの素性でわかるものはなかった……戦士が話を聞いた時も、戦士団に入りたての頃だったそうだから、ずいぶんとガードが堅かったということだろうねえ」
つまり、それだけ大物ということか……言葉を待っているとカトレアはさらに続けた。




