能力を知る
俺もまた修行、ということになったわけだが……まずは何より俺の能力を知る必要があるということで、
「魔王に挑んだ術式について、見せてもらおうか」
カトレアはまずそう指示した。ちなみに目の前には相手としてヴィルマーが立っている。
……なんとなく思うんだが、修行という名目にかこつけて決戦術式を見たいだけ、とかいう可能性もゼロじゃないな。
「……あんまり乱用はできませんよ」
「体に負担が掛かるのかい?」
「それなりに。使いすぎると後遺症が残ると」
「ほう、なるほど……身体的な負担を引き換えに成しえる術か」
「それくらいはしないと勝てなかった、ということですね」
「魔王を相手にする以上は至極当然かもしれないが……ふむ、改良とかはしないのかい?」
「負担が掛からないように、ですか? 俺の技術では現状難しいですね……とりあえず、見てもらいましょうか」
そう言って俺はヴィルマーへ視線を向けると相手は、
「じゃあ早速始めるとするか」
なんだかウキウキな様子である。決闘したかったみたいだったし、図らずもこういうシチュエーションになったのは彼としては役得か。
アルザやミリアについては観戦するようだし、なおかつカインやボニーもまた決闘を注視している……俺は小さく息をついた後、覚悟を決める。
「……カトレアさん、使えるのは短時間です。五分以上使用すると体に大きい影響が出るので、三分程度で」
「あいわかった。ボニー」
「はい」
カトレアに名を告げられた彼女はすぐさま訓練場を出て行く……が、すぐさま戻ってきた。その手には砂時計が。
「三分を正確に計るものだ。ディアスの準備ができて合図を行い次第、これを逆さにしたらスタートする」
「わかりました。それと決闘で魔法を使う以上は――」
「結界は構築するさ」
そう言うとカトレアは魔力を高め――あっという間に俺とヴィルマーを取り囲む結界が構成された。
そこで俺は身の内で術式を編み上げていく……ヴィルマーは剣を抜き臨戦態勢へ。俺もまた杖を構えつつ、戦術を考える。
シュウラやセリーナと戦った時とは訳が違う。今回の相手は戦士であり、接近戦に持ち込んで勝てるような相手ではない。
一方で魔法も詠唱はできない……とくれば長距離戦に持ち込めばいけそうだが、結界内の広さがそれなりである以上、どれだけ逃げても接近されるだろう。
相手の身体能力を考えれば、一瞬で肉薄されるのは明白。逃げ回って無詠唱魔法で攻めるような戦術は難しい以上、多少なりとも杖で応戦しなければならないはずだ。
では、どうすればいいのか……俺は内心で答えを出す。これでいけるかどうかはわからないが、三分間ヴィルマーに挑める方法としてはこれしかない。
「覚悟は決まったようだね」
俺の目の色が変わったのを見て取ったか、カトレアが発言する。それでこちらは苦笑しつつ、
「こちらは大丈夫です」
「では――始めるよ」
砂時計が逆さまとなった。その瞬間、ヴィルマーは俺へ突撃を開始した。
向こうの動きは明らかに様子見をするというわけでもなく、本気だった。術式を発動するより前に決めてやるという雰囲気さえ見て取れる
少しでも隙を見せれば終わらせてやるという気概に満ちており……決戦術式を起動。直後、俺は一歩後退した後に杖をかざした。
無詠唱魔法が来る、とヴィルマーは直感したことだろう。俺が生み出したのは雷撃であり、肉薄しようとするヴィルマーはさすがに防げない……と、周囲の人は思ったことだろう。
だが彼は剣の間合いに到達するより先に剣を振った。直後、俺の放った雷撃がヴィルマーの剣を受けて、弾け飛ぶ。
魔法を斬る……無茶苦茶ではあるが、こんな芸当ができるからこそ、彼は強い。だが、
「ふっ!」
俺はなおも後退しながらさらに雷撃を放つ。だがヴィルマーはそれもまた斬って防いだ……が、今度は火球、氷、風、ありとあらゆるものが彼へと注がれる!
「――は?」
さすがにこれは予想外だったのか、俺の攻撃に対し小さく呟いたのが聞こえた。そして押し寄せる魔法攻撃に対して彼はとうとう後退を選択。決戦術式を利用することにより無詠唱魔法が強力となったので、強化能力を利用した魔法の連打……これが思いついた戦術だった。
セリーナやシュウラ相手ではさすがに通用しない手段だが、魔法が使えないヴィルマーであれば通用する……彼は自分の届く魔法をどうにか斬って捨てながら距離を置くことに成功した。
「理不尽極まりないな……!」
そしてヴィルマーは告げる。彼自身、大量の魔法が来るなんていう状況に立ち会ったことは、戦歴から考えてもあるだろう。だがそれは、彼の防御能力をもってすれば破壊できる……人間ならば一瞬で先ほど俺が行使した魔法の数を、十分な威力を持たせて撃つなんて事前準備ができなければ無理筋だ。
けれど決戦術式を使った俺なら、いける……どうにか押し返すことはできたが時間的な余裕はない。よって俺は、自らの意思で足を前に出した。




